「血圧を上げないためには生活習慣の改善が大切」。誰もが一度は聞いたことがあるだろう。しかし、どうすれば生活を改善できるのか、手探り状態の人は多い。さらに、「必要性は理解できるが実行に移せない」というパターンも珍しくない。働き盛り世代に無理なく実行できる、生活改善の「コツ」を探ってみた。
日本高血圧学会の推計によれば、わが国の高血圧患者数は約4300万人。うち1260万人は40歳から59歳の「働き盛り」である。
「公的年金の支給開始年齢は65歳。社会情勢によっては更に先になる可能性もあります。今の働き盛りは、それまで元気で働かなければなりません」。こう指摘するのは、東北労災病院(仙台市青葉区)の高血圧内科部長、宗像正徳氏だ。宗像氏は、同病院の治療就労勤労両立支援センターで、予防医療部長として勤労世代の生活習慣病予防に取り組んできた。
歳をとっても元気で働くため、働き盛り世代が一番注意すべきなのは「血圧の管理」だと宗像氏は言う。高血圧は脳卒中(脳梗塞や脳出血)になる危険性を高める最大の因子だからだ。
日本人は西欧人に比べ脳卒中になりやすく、脳卒中患者の割合も多い。脳卒中の救命率は上がっているが、命は助かっても障害が残らないとは限らない。脳卒中を起こした後、元の仕事に戻れる人の割合は昔よりも増えたが、それでも33%のみだ(「労災疾病等13分野研究」2013年報告)。
下の血圧が「85mmHg超」で黄信号
それでは、血圧はどれくらいの値に管理するとよいのか。日本高血圧学会が2014年に公表した最新の高血圧ガイドラインでは、医療機関で測定した血圧(診察室血圧)が140/90mmHg以上の場合を「高血圧」と定義している。しかし宗像氏らのデータからは、下の血圧を、高血圧と診断される値よりも低い「85mmHg未満」に維持する方が良い可能性が示されている。
「私たちは2009年以来、『亘理(わたり)町研究』として、宮城県亘理町から特定健康診断のデータをいただき、脳卒中など、その後の生活習慣病発症との関連を調べています。その一環として約2500人のデータを解析したところ、下の診察室血圧(*1)が85mmHgを超えた時点で、尿の中にわずかながらたんぱく質が漏れ出していました。これは、腎臓の細い血管が動脈硬化を起こし始めていることを意味します。そしてたんぱく質が漏れだしている人では、その後、脳卒中などを起こす確率が3倍近く高くなっていたのです」(宗像氏)。
しかし下の血圧が85mmHgを超えていても、高血圧に該当する140/90mmHg以上でなければ、通常、降圧薬は処方されない。そのため、薬に頼らず、生活習慣の改善により血圧を低く維持することが肝心となる。
生活習慣の改善で「10/5mmHg以上の降圧」も
では、生活習慣改善がどれほど「血圧に効く」のか、データを見てみよう。