高血圧は「血管ボロボロ」の主犯
気づかぬうちに、血管の健康を守る内皮細胞にダメージが蓄積
宇津貴史=医学リポーター
健康診断などで「高血圧」を指摘されたのに「少し高いだけ」「体質だ」などと、治療をためらっている人はいないだろうか? だが、血圧が高い状態を放置していると、体内では恐ろしい変化がゆっくり、しかし確実に進む。内皮細胞という、血管の健康を保つために必要不可欠な組織が不具合を起こすのだ。なぜ高血圧を放置してはいけないのか、内皮細胞という観点から考えてみよう。
血管の壁は3層構造になっている。そのうち一番内側の、血液と接触する面を構成しているのが、「内皮(ないひ)」と呼ばれる一団の細胞だ(図1)。内皮細胞は、血管の一番内側に、びっしりとレンガのように敷き詰められている。
高血圧を放置すると、この内皮細胞が最初に傷み、具合が悪くなる(内皮機能障害)。「内皮機能障害を起こす最大の因子は、年齢と高い血圧です」。こう説明するのは、内皮細胞の観点から血管を研究してきた、広島大学未来医療センター長で心血管再生医学教授の東幸仁氏だ。
テニスコート6面分の内皮細胞に不具合
「内皮? たかが血管の中の話じゃないか」と侮るなかれ。内皮細胞を取り出して広げると、「テニスコート6面分の面積。縦につなげると10万キロメートルにも及びます」(東氏)。10万キロメートルといえば、地球2週半に相当する長さだ。つまり、高血圧を放置すると、体内では「テニスコート6面分」の不具合が、「地球2周半の長さ」にわたり引き起こされる計算になる。もしも痛みを伴う不具合なら、矢も盾もたまらず医療機関に駆け込んでいるだろう。
内皮細胞が痛むとますます血圧が上がる
もっとも、内皮細胞の不具合に痛みなどの自覚症状はない。しかし不具合を放置すると、血圧が上がりやすくなるのに加え、動脈硬化も始まりかねない。さらに突然血管が詰まる危険性も高まる。内皮細胞には、これらの異常を抑制する3つの大事な働きがあるためだ。不具合の放置は、それらの働きを低下させる。