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Gooday's View 記者の目

宅配ドライバーの夫、介護福祉士の妻…「働き方改革」が及ばない現実を映した傑作映画

 寺西 芝=日経Gooday編集長

 前作『わたしは、ダニエル・ブレイク』でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞したケン・ローチ監督の新作が公開された。その新作『家族を想うとき』の主役はある家族、宅配ドライバーの夫、介護福祉士の妻とその子供たち。この作品で83歳の監督が訴えたかったものとは…。

 イギリスの映画監督ケン・ローチをご存じだろうか。映画『万引き家族』でカンヌの最高賞パルム・ドールを受賞した是枝裕和監督が敬愛するのがこのケン・ローチだ(*1)。ローチ監督の新作『家族を想うとき』が公開された。

photo: Joss Barratt, Sixteen Films 2019

 今回の作品は、世界のあちこちで起こっている働き方の問題がテーマだ。主役の家族は、夫がフランチャイズの宅配ドライバー、妻はパートタイムの介護福祉士、16歳の息子、12歳の娘の4人暮らしという設定。フランチャイズなので「個人事業主」として契約し、配達用の車は自分で用意する。配れば配るほどお金がもらえるが、病気やケガで休むとお金は入らない。それどころか罰金を払わねばならない…主人公はそんなシステムに組み込まれていく。

 映画では宅配ドライバーと介護福祉士の日常が描かれる。ご存じのように宅配は時間内に届けなければならない。駐車違反に問われそうなったり、玄関先でトラブルになったり…。介護福祉士の妻も訪問先での出来事や子供が起こすトラブルで疲れ果てていく。ケン・ローチ監督は入念なリサーチで映画の脚本を組み立てていった。

 「Uber Eats」の配達など、(社員ではない)人を募集して「自由な働き方」をうたう仕事がある昨今、仕事の形態が昔とはまったく様変わりしているのは、われわれも日々実感しているし、ニュースなどでも知っている。しかし、介護の現場にしても、コンビニにしても、宅配業者にしても、日々接しているサービスの本当の現実にはあまり目を向けてこなかった(24時間営業のコンビニ経営のキツさがやっと社会問題にはなったが…)。便利なサービスの裏側には、そのシステムを動かすために寝る時間を削って働いている人もいる。だが、そこに「働き方改革」は及ばない。

このシステムは持続可能なのか、という問い

 ケン・ローチ監督は映画の宅配ドライバーの主人公に関してこう語る。「このシステムは持続可能か、ということです。1日14時間、くたくたになるまで働いているバンのドライバーを介して買った物を手に入れることが、持続可能と言えるのでしょうか? 自分で店に行って、店主に話しかけることよりもよいシステムなのでしょうか?」

 宅配ドライバーにしても、介護福祉士にしても、日本でも本当に身近な職業だ。監督は言う。「これは私たちが存在を知っているにもかかわらず、誰も語ろうとしなかった物語です」。そのとおり、身近にある職業の人たち。毎日、街で会っている人たちの話だが、彼、彼女のことをあまり考えなかったことを監督は言いたいのかもしれない。

 その人たちも含めて、すべての働く人は体と精神がともに健康であって働き続けられるような社会になってほしい。けっしてサボっているわけではなく、真面目に働いているのに、健康で文化的なくらしが実現できない社会って何なのだろう…と思ってしまう。今の社会のありようを考えさせられた。

 詳しくは映画を観ていただきたいが、映画では主人公に、ある悲劇が起こる。「個人事業主」だから、その悲劇も「自己責任」として処理される。だが、個人それぞれに自己責任を押し付けるような社会には、明るい未来はないと思うのだ。

 つらい「現実」をストーリーにしながらも監督はこう語る。「観客の方々が本作の登場人物に信頼を寄せ、彼らのことを思いやり、彼らと共に笑い、彼らのトラブルを自分のことと思わなかったら、この映画には価値がありません」と。

 ちなみに映画の原題は、Sorry We Missed You。宅配業者が留守宅に残すメッセージの一文だ。留守で荷物を渡せなかったの意味だが、映画では別のメッセージが込められている。もし映画を観たならば、きっとこの英語タイトルが心にしみてくるだろう。

photo: Joss Barratt, Sixteen Films 2019
*1 是枝監督はNHKのインタビューで「映画作りを始めたときに一番指針になった」「憧れ以上の存在」(9月17日放映「クロ現」)と語っている。

家族を想うとき

いったい何と闘えば、家族を幸せにできるの?
名匠ケン・ローチ監督が再び、立ち上がる美しく力強い家族の絆

◇  ◇  ◇

2019年12月13日(金)より
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

監督:ケン・ローチ
出演:クリス・ヒッチェン、デビー・ハニーウッドほか


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