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インフルエンザ総特集

インフルエンザの新薬ゾフルーザは“早く楽になる”

ウイルスの消失が速く、家族内感染を減らせる可能性

 金沢 明=医学ライター

この冬、インフルエンザの治療薬に「ゾフルーザ(一般名バロキサビル)」という新薬が登場した。この薬の特徴は、これまでのインフルエンザ治療薬とは作用機序(メカニズム)がまったく異なり、ウイルスの消失が速いこと。この新薬の話題を中心に、この冬のインフルエンザの治療や予防のポイントを、インフルエンザ診療に詳しい医師の廣津伸夫氏に取材した。

冬の大敵、インフルエンザが今年も流行り始めた。(C)hikdai-123RF

 今年もインフルエンザが流行シーズンに入った。例年、インフルエンザは12月に流行が始まり、年末年始に一旦収まったのち、1月末から2月にかけて流行のピークを迎える。昨シーズン(2017/18シーズン)は、推計患者数約2210万人(今シーズンから採用された新推計方法に基づくと約1460万人)の大流行となったが、今シーズンも予断を許さない。早めに予防接種を済ませ、マスク、手洗い、人混みを避けるなどの予防策を講じたい。

 この冬のインフルエンザには、2つの新しいトピックスがある。一つは、インフルエンザの治療薬に「ゾフルーザ(一般名バロキサビル)」という新薬が登場したこと。もう一つは、これまで10代の患者への使用が制限されていた「タミフル(一般名オセルタミビル)」の添付文書が改訂され、10代への使用制限が解除されたことだ。タミフルについては、同じ成分で窓口負担の少ないジェネリック医薬品(後発品)も登場した。

 このうち新薬ゾフルーザの話題を中心に、この冬のインフルエンザの治療や予防のポイントを、廣津医院(川崎市高津区)院長の廣津伸夫氏に聞いた。

ゾフルーザを飲むと、丸一日で半分の人のウイルスがなくなる

 廣津氏は内科と小児科を専門とするベテラン臨床医。日々の診療の傍ら、インフルエンザに関するさまざまな臨床研究に取り組んでおり、「ゾフルーザ」の承認申請のために行われた臨床試験(治験)にも参加している。

 ゾフルーザは、これまでのインフルエンザ治療薬(タミフルリレンザ〔一般名:ザナミビル〕、イナビル〔一般名:ラニナミビル〕、ラピアクタ〔一般名:ペラミビル〕)とどう違うのだろうか?

 「まず作用機序(メカニズム)が、これまでの薬と全く違います。これまでのインフルエンザ治療薬は、ノイラミニダーゼ阻害薬と呼ばれる種類の薬で、感染した人の細胞の中で増殖したインフルエンザウイルスが、他の細胞に広がるのを抑える作用がありました。一方、ゾフルーザには、ウイルスの増殖そのものを抑える働きがあります」(廣津氏)。

 廣津氏によれば、ゾフルーザの効果は非常に高い。「インフルエンザを発症した後、熱や咳、鼻水、節々の痛み、疲労感などの症状がすべてなくなるまでの時間(罹病期間)についていうと、ゾフルーザはプラセボ(偽薬)より中央値で1日余り早く、タミフルとの比較では同等という結果が出ています(*1)。罹病期間ではタミフルとの差が出ていませんが、ゾフルーザはインフルエンザの主症状である『きつい、つらい』症状に関して、従来の薬よりも『早く楽になった』と話す患者さんが多い印象です」(廣津氏)。

 その理由として廣津氏が挙げるのが、前述した作用機序の違いだ。「ゾフルーザには、インフルエンザウイルスの増殖そのものを抑える作用があるので、ウイルスがなくなるスピードが速いのです。ゾフルーザを投与すると、丸一日で半分の人のウイルスがなくなります。これまでの薬の中で最もウイルスの消失が早いラピアクタでも、3日で80%の人のウイルスがなくなる程度ですから、かなり早いスピードです。患者さんの中には、昼に当院を受診してゾフルーザの処方を受け、翌朝には『楽になりました』と話す人もいます」と廣津氏は語る。

*1 ゾフルーザの医薬品インタビューフォームより

 タミフルとの直接比較でも、ゾフルーザの方がより早くウイルスが減少することが示されている(図1)。患者がインフルエンザウイルスを排出しなくなる(ウイルスが陰性になる)までの時間の中央値は、タミフルを投与されたグループが72時間だったのに対し、ゾフルーザを投与されたグループは24時間2日もの差があった。

図1 ゾフルーザとタミフル投与後のインフルエンザウイルスの減少量
ゾフルーザの治験(第III相臨床試験)データより。投与の翌日(2日目)には、ゾフルーザを投与された患者は、タミフルを投与された患者よりも100倍早くウイルスが減少していることを示している(グラフは対数)。
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 「インフルエンザの症状の改善は体の免疫反応なので、ウイルスの量だけで単純に決まるわけではなく、その程度や持続期間には個人差があります。そのことを踏まえても、ゾフルーザを使用した人で早く症状が良くなる人が目立つのは、ウイルスの消失スピードの速さが影響していると考えられます。さらに、ウイルスの消失が早いということは、家族や周囲の人にうつす2次感染のリスクを低くする可能性を意味します」(廣津氏)。

家族内感染の起こしやすさは薬によって異なる

 実は、廣津医師が中心となって2010年から2016年にかけて行った研究(*2)によると、どの薬を使うかによって、インフルエンザの家族内感染の起こりやすさに差が見られることがわかっている。この研究には新薬のゾフルーザは含まれておらず、4種類の従来薬(タミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタ)を比較している。

 対象は、インフルエンザに感染した1807人(A型1146人、B型661人)の患者とその家族。患者の発症後、家庭内で同じ型のインフルエンザに感染した人(2次感染者)の割合(2次感染率)を調べたところ、2次感染率は、タミフルを使用した患者で最も高かった。そのタミフルとの比較で、統計学的に有意に2次感染率が低かったのは、ラピアクタリレンザだった。イナビルとタミフルの間には統計学的な差がみられなかった。

 廣津氏は今後、ゾフルーザについても同様の研究を行い、ゾフルーザを飲むことによってインフルエンザの家族内感染のリスクが本当に減るかどうかを検証する予定だという。

ゾフルーザは1回飲むだけで治療が完了

 ゾフルーザのもう1つの従来薬との違いは、「1回飲むだけで治療が完了する飲み薬」であるという点だ。

 これまでのインフルエンザ治療薬で、飲み薬としてはタミフルがあったが、1日2回、5日間飲む必要があった。1回の投与で済む薬としては、吸入薬のイナビルと点滴薬のラピアクタがあるが、「点滴薬のように時間がかからず、薬を受け取って1回飲めば治療が完了するという意味では、ゾフルーザにはイナビルに匹敵する利便性があると言えます。飲み薬であれば、吸入が上手にできない小児でも使うことができます」と廣津氏は話す。

*2 Hirotsu N, et al. Influenza Other Respir Viruses. 2018 Jul 10. doi: 10.1111/irv.12590.

 では、この冬インフルエンザにかかった患者は、皆ゾフルーザを飲めばよいということになるのだろうか? 廣津氏は、その問いには慎重な姿勢を示す。

 「確かに承認前の治験では十分な効果や安全性が認められましたが、治験に参加した患者の数は1000人程度です。ゾフルーザが発売になったのは、昨シーズンの流行が終盤に入った2018年3月中旬なので、まだそれほど多くの患者に使われていません。どんな新薬も、臨床現場でかなりの人数に使われないと、本当に安全で良い薬であるかは分かりません。私のクリニックでも、予期せぬ副作用の出現に十分注意しながら慎重に使っていく予定です」(廣津氏)。

 なお、ゾフルーザの治験では、治療中に小児患者の2割強、成人患者の約1割で、「アミノ酸変異株」の出現が認められている。それらの患者では、インフルエンザウイルスのゾフルーザに対する感受性の低下がみられたが、感受性の低下幅は約50倍と比較的小さく、そのことがゾフルーザの治療効果の低下につながるかどうかは分かっていない。他のインフルエンザ治療薬(ノイラミニダーゼ阻害薬)でも、治療中に低感受性ウイルスや耐性ウイルス(感受性が100倍以上低下したウイルス)が出現することが分かっているが、いずれも臨床効果への影響は不明だ(*3)。

 それぞれの治療薬の特徴を表1にまとめた。ゾフルーザは、現時点では予防投与が認められていない。薬剤費を比較すると、今シーズン登場したタミフルのジェネリック医薬品「オセルタミビル(一般名オセルタミビル)」が一番安い。インフルエンザの治療を受ける際は、こうした違いも頭に入れておきたい。

表1 インフルエンザ治療薬の比較
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 インフルエンザの予防にはワクチンなどの手段がある。だが、自己の感染予防以上に大切なことは「インフルエンザにかかった人が、周りの人にうつさないこと」だと廣津氏は話す。「急な寒気、熱、咳、節々の痛みといったインフルエンザのような症状が出てきたら、無理して出歩かず、早めに受診し、休息をとってください。周りの人に感染を広げないよう、1人1人が配慮することが、社会全体の流行を抑えるためには一番重要です」(廣津氏)。

*3 日本感染症学会「キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬(Cap-Dependent Endonuclease Inhibitor)Baloxavir marboxil(ゾフルーザ)について」
廣津伸夫(ひろつ のぶお)さん
廣津医院(川崎市高津区)院長
廣津伸夫(ひろつ のぶお)さん 1972年東京慈恵会医科大学卒業。同大学第二内科、小児科を経て1984年より廣津医院院長。
感染症、インフルエンザを専門とし、インフルエンザの研究で2004年に神奈川県医師会学術功労者表彰、2010年に日本臨床内科医会会長賞受賞。共著書に『インフルエンザ診療マニュアル』(日本臨床内科医会)、『プライマリケアのためのインフルエンザ診療』(医薬ジャーナル社)ほか。日本感染症学会インフルエンザ委員。
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