この冬のインフルエンザワクチン、A香港型には効果が低い可能性も
専門家を悩ませる「鶏卵馴化」とは? ワクチン不足だけでない新たな懸念
三和 護=日経メディカル
十分な生産量を確保できなければ、希望してもワクチンが接種できない人が相当数発生すると見込まれ、社会的な混乱を生じる可能性があります。このことを理由に急きょ、A/H3N2のワクチン用ウイルスは「A/香港/4801/2014(X-263)」に切り替えられたのでした。
新しいウイルスは、昨年同様、鶏卵馴化によって抗原性が変化する懸念がありますが、他の3つの型、すなわち、A/H1N1、B型のビクトリア系統と山形系統のそれぞれのウイルスには効果が見込めることから、このような決断に至ったと理解できます。この点は、供給量確保の観点から、やむを得ない判断と受け止める人は多いはずです。
抗原変異の程度と実際の有効率は必ずしもリンクしない?
では、今シーズンのワクチンは、A/H3N2に対する効果はほとんど期待できないのでしょうか?
ここに、厚労省が示した興味深い調査結果(*4)があります。この調査によると、昨シーズン(2016/2017年シーズン)も、A/H3N2において、でき上がったワクチンの抗原性と実際に流行したウイルスの抗原性の合致度が良好でなかった(流行ウイルスの9割以上でワクチンとの反応性が低かった)にもかかわらず、6歳未満のワクチンの有効率は約42%(A/H3N2に限ると38%)だったというのです。ちなみに昨シーズンは、A/H3N2が流行ウイルスの主流を占めていました。
「流行株の9割以上でワクチンとの反応性が低下していたにもかかわらず、6歳未満での有効率は約42%だった」。この事実を、私たちはどう受け止めたらよいのでしょうか。有効率が40%ほどあるのなら、A/H3N2でも効果があると考えてワクチン接種を受けるのか。40%ほどでしかないのなら、A/H3N2では効果が十分ではないと考えてワクチン接種を控えるのか――。
予防接種を受けるかどうかは個人の判断に委ねられていますが、私たちはこうした情報を頭に入れ、予防効果の限界を理解した上で接種を受ける必要があるでしょう。人混みを避ける、マスクや手洗いをするなど、ワクチン以外の感染予防策を徹底することも忘れてはなりません。ちなみに、私自身は呼吸器系の持病があるため、インフルエンザにかかって持病が悪化するのは怖いので、今年もワクチンは打つつもりです。
また、実際に流行する可能性のあるウイルスは、A/H3N2だけでなく全部で4種類あります。仮にA/H3N2への効果が低くても、他の3つの型のウイルスもカバーしていることは、ワクチン接種のメリットと言えるでしょう。現時点では、各地で複数のウイルスが同時に流行する、混合流行の様相を呈しています(関連記事「インフルエンザ、流行期入りの自治体が出始める」)。こうした流行動向もチェックしながら、この冬を元気に乗り切りたいところです。