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抗生物質の乱用が招く「耐性菌」の脅威って?

耐性菌は、なぜ怖い?私たちはどうすればいい?

 稲垣麻里子=医療ジャーナリスト

世界規模で広がる「耐性菌」の脅威

「とりあえず抗生物質」には毅然とした態度を!(©Tymofii Chernenko 123-rf)

 抗生物質(正確には抗菌薬)は病原菌を死滅させる目的等で使用され、細菌による感染症に劇的な効果をあらわす、医療に欠かせない薬だ。ただ、細菌も生き残りをかけて、この抗生物質に抵抗するべく遺伝子を変化させる等の手段を講ずる。こうしてできた菌を「耐性菌」と呼ぶ。

 この耐性菌をめぐる問題、つまり、薬が細菌に効かなくなる「薬剤耐性」の問題が世界規模で急速に広がっている。

 イギリスの調査によると、2050年には年間1000万人が耐性菌で命を落とすと推測されている。こうした中、「薬剤耐性」の問題について世界保健機関(WHO)と連携したアジア・太平洋地域の関係閣僚会議が2016年4月に日本で開催されることが決まり、世界的な枠組み作りも始まろうとしている。

耐性菌で命の危険にさられるのは弱者

 耐性菌によって命の危険にさらされるのは、主に高齢者や乳幼児など体力のない人だ。抗生物質が多く投与されている重症患者の体内には耐性菌が発生しやすい。重症患者が多く集まる病院で耐性菌が蔓延した場合、患者が院内感染で命を落とすことも少なくなく、ニュースで取り上げられるたびに院内の管理体制が問題視される。

 だが、実は一般の人たちも、この耐性菌の蔓延に知らず知らずのうちに加担していることもある。抗生物質の乱用だ。自分には心当たりがないという人も、たとえば次ページで挙げるような経験がないか振り返ってみてほしい。

「とりあえず抗生物質」には気を付けよ

 風邪をひいて近くのクリニックに行くと、「風邪ですね。とりあえず抗生物質を出しておきましょう」と医師から言われたことはないだろうか。感染症専門医で感染症コンサルタントの青木眞医師によると、一般的に抗生物質は「どんな感染症にでも効く万能薬」と誤解されているそうだ。「熱があるから、とりあえず抗菌薬」といった感じで乱用されることも。

 発熱、咳、鼻水、のどの痛み、下痢などのいわゆる風邪症状のほとんどはウイルスによるもの。基本的には、安静にしていれば自然治癒する。抗生物質には、これらウイルスによる風邪症状を抑える効果はまったくないのだという。

 それどころか、誤った服用や過剰な服用をすると、アレルギーや下痢などの副作用を起こしたり、体にとって必要な菌を死滅させたりするだけでなく、体の中にいる細菌が抗生物質に対抗して抵抗力を持つ、すなわち「耐性化」が起きてしまう。

 耐性化した細菌に対して、人類は新たな抗菌薬を開発して死滅させることで対抗してきたが、しばらくするとそれに対してもまた耐性を獲得した菌が出現してくる。人類と細菌は長い間こうしたイタチごっこを続けてきたが、抗菌薬の大量使用がなくなることはなく、現在、新薬の開発は手詰まりになりつつある。まさに耐性菌に対抗するコマがなくなってきた状況なのだ。

なぜ医師は抗生物質をすぐ処方するのか

 抵抗力の弱い人たちに耐性菌が感染すると、肺炎や腎盂炎を引き起こし、ときには生命に関わる危険性もある。また、高齢者や乳幼児でなくとも、体調の悪いときにこれらの病気を発症し、効く薬が見つからず治療が困難な状態に陥ることもある。

 にもかかわらず、医師が抗生物質を処方するのはなぜか。「私が思うに、一つは抗生物質を出すと患者が安心する。二つめは風邪症状を訴える患者の何万人に1人という低い確率で発症する肺炎など重篤な病気のリスクを回避する。三つめは何か経済的なインセンティブのため、でしょうか」。青木医師はそう説明する。

 では、私たちはどのように耐性菌から身を守ればよいのだろうか。

耐性菌から身を守るために私たちにできること

 「まずは風邪や下痢と診断されたときにはむやみに抗生物質を求めない、服用しないことです」(青木医師)。

 検査結果で肺炎や赤痢、サルモネラなど、細菌による病気であると診断された場合、あるいはそれらを疑わせる症状や経過があると医師が判断した場合のみ、抗生物質の処方を受け入れるようにし、説明もなく抗生物質を処方する医師に対してはきちんと説明を求めることが大切だという。

 無駄に抗生物質を使用すると、いざ重い病気で抗生物質がどうしても必要になったときに効かなくなる可能性がある。実は、コミュニティ全体で抗生物質の使用を控える工夫をすることで、耐性菌は少しずつ減っていくという。「抗生物質を適正に使えば、耐性菌の問題を最小限にできるのです」(青木医師)。

※耐性菌についてさらに詳しくお知りになりたい方は、「薬が効かない「耐性菌」をどう抑える?」(会員限定記事 登録有料)の記事をご覧ください。

青木 眞(あおきまこと)医師
感染症コンサルタント
青木 眞(あおきまこと)医師

1979年弘前大学医学部卒業。感染症コンサルタント。東京医科大学 臨床検査医学講座 客員教授。米国一般内科・感染症内科専門医。抗生物質の適正使用を含む感染症診療の基本について啓蒙活動をしている。