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あなたの身近にもある「発がん性物質」

自然界に存在するものから、体内で生成されるものまで多種多様

 仲尾匡代=医療ライター

発がん性物質に触れたり、食べたりしたからといってすぐにがんになるわけではありません。(©Andrei Seleznev-123rf)

 2015年10月、100円ショップのダイソーは、マニキュア76商品に発がん性物質ホルムアルデヒドが検出されたとして販売を中止し、商品の自主回収を始めた。

 問題となったホルムアルデヒドは、シックハウス症候群の原因としても知られている化学物質。WHO(世界保健機関)の専門組織・国際がん研究機関(IARC)により「人に対して発がん性がある」と評価分類され、日本では化粧品類への使用が禁止されている。

 また、最近では、同じくIARCが、加工肉に「人に対して発がん性がある」と発表し、大きな話題を呼んだ(関連記事:「『加工肉』の発がんリスク、日本人への影響は?」)。

 では、そもそも、発がん性物質とは一体何なんだろうか。

化学物質だけではない! 自然界に多く存在する発がん性物質

 一般的に発がん性物質は、「がんを発症させる原因物質」を指すが、その物質が体内に入ると直ちに発がんするというわけではない。

 発がんのメカニズムはまだ完全には解明されていないものの、「正常な細胞の遺伝子が何らかの刺激を受けて突然変異し、がん細胞へと変化する」ということは分かっている。この遺伝子に突然変異を起こさせる刺激物と、がん細胞の増殖を促すものを、発がん性物質より大きなくくりとして「発がん因子」と呼ぶ。それらは、ホルムアルデヒドのような化学物質のみならず、ウイルスや菌などの生物、放射線や紫外線など多岐に渡る。

 「発がん性物質というと、人工的に合成された化学物質と思われがちですが、もともと自然界に存在するものも多いのです」。IARCのスタッフとして、人にがんを起こすような物質や生活習慣に関する研究に従事した黒木登志夫先生(日本癌学会元会長)は、こう解説する。

 例えば、ナッツ類に繁殖するカビには、高リスクの発がん性物質が含まれるという。また、体内で生成される発がん性物質もある。「魚に含まれる第2級アミン(RR’-NH)と漬け物に含まれる亜硝酸(H-NO2)の食べ合わせでできるニトロソアミン(RR’-N-NO2)がその一例です」(黒木先生)。肉や魚を加熱してできたコゲにも発がん性物質は含まれ、モノが燃えるときにも発がん性物質が発生する。実は、発がん性物質はあらゆるところに存在し、私たちはそれらに囲まれて生きているのだ。

表1◎ 発がん因子の例
発がん性物質人工的な化学物質のほか、食品に含まれる化学物質や化合物、体内で生成される化合物なども含まれる。
ウイルス・細菌子宮頸がんを誘発するヒトパピローマウイルスや、胃がんを発症させるヘリコバクター・ピロリ菌など。
放射線・紫外線放射線は、作業場や医療現場で高線量に使用した場合。紫外線は、B波が皮膚がんの発がん因子となる。
その他生活習慣、食習慣、生活環境など。

国際機関が発がん性についてチェックしている

 こうした発がん因子を評価し、そのリスクの高さに準じて分類したのが、「IARC発がん性リスク一覧」である。IARCでは、化学物質、化合物、ウイルス、菌、薬、生活習慣、従事する職業といった発がん因子に関する研究の科学的根拠を検証し、下記のように分類して評価・公表している。

  • グループ1  人に対して発がん性がある
  • グループ2A 人に対して発がん性がおそらくある
  • グループ2B 人に対して発がん性が疑われる
  • グループ3  人に対して発がん性があると分類できない
  • グループ4  人に対して恐らく発がん性はない

有益性ゼロの発がん性物質をまず避ける

 IARC発がん性リスク一覧を見ると、グループ1だけでも、100以上の因子が列挙されている。

 また、発がん性物質の中には、半面、人に有益に働くものもある。紫外線や放射線もしかりだ。放射線治療やX線検査で得られるメリットを考慮すると、これらの照射が必要になる場合もある。

 つまり、発がん性物質を避けることばかりを考えていても、現実的には生活が難しい。また、これらを避けていれば、がんの発症を避けられるかと言えば、必ずしもそうではない。

 「がんの発症メカニズムは複雑です。がん予防のためにはっきり言えるのは、タバコやアスベスト(石綿)のように“体にとって有益な面がない”発がん性物質は徹底して避けるべきということだけです」(黒木先生)。さらに、がん予防の基本は、禁煙、節酒、運動、肥満予防につきるという。

 いたずらに発がん性物質におびえるのでなく、予防を意識した生活を送ることが、最も現実的ながん予防の選択肢といえそうだ。

黒木登志夫(くろき としお)先生
日本学術振興会学術システム研究センター相談役
黒木登志夫(くろき としお)先生 東北大学医学部卒、国際がん研究機関(フランス、リヨン市)勤務ののち、東京大学教授、岐阜大学学長、日本癌学会会長を歴任。専門は細胞生物学。著書に「がん遺伝子の発見」(中央公論社)、「がん細胞の誕生」(朝日新聞社)などがある。