実は競技能力とは無関係! 「動体視力」って何?
動体視力の数値が低いトップアスリートも。競技能力には経験や精神状態、判断能力、戦術・戦略なども影響する
仲尾匡代=医療ライター
日本が金・銀・銅合わせて41個と、史上最多のメダルを獲得して幕を閉じたリオデジャネイロ五輪。8日からはパラリンピックが始まった。トップアスリートたちの身体能力のうち、“見る力”は、どれほど競技の優劣に関わっているのだろう。スポーツ選手の視機能について詳しい、えだがわ眼科クリニック(東京都目黒区)院長の枝川宏医師に解説してもらった。
トップアスリートに最も大切なのは静止視力
トップアスリートの視機能は、一般人と比べて優れているのだろうか。国内のトップアスリートのメディカルチェックを行っている国立スポーツ科学センターで多くのスポーツ選手の視機能について調べてきた、えだがわ眼科クリニック(東京都目黒区)院長の枝川宏医師に話を聞いた。
「3330人のトップアスリートの視力を検査したところ、全体の8割以上が1.0以上の視力を持っていました。これには、近視などをメガネやコンタクトレンズで矯正した人も含みます」(枝川医師)。ここでいう視力とは、定期健康診断などで受ける視力検査で測る視力のことであり、静止視力(Static Visual Acuity:SVA)とも呼ばれている。
静止視力を競技種目別にみると、野球やテニスといった速いボールを目で追う球技種目の選手の方が、格闘技や陸上競技などの競技者よりも、視力が良いことが分かった(図1)。
「ボールや他の選手の動きを瞬時に認識してプレーすることが要求されるスポーツでは、視力が悪いままプレーした場合、ものをしっかりと認識できないために反応が遅れたり、プレーの正確度が悪くなったりします。そのため、正常視力(1.0以上)でプレーする場合と比較して、何らかのハンデを背負うことになるのです」と枝川医師は話す。プロ野球選手の中には、適切に視力を矯正した後に首位打者になった人もいるそうだ。
では、動くものを目で追い、判別する視力「動体視力」はどうだろうか。「トップアスリートは動体視力が良い」というイメージを持っている読者は少なくないだろう。
- 次ページ
- トップアスリートは動体視力がいい?