日経グッデイ

Gooday知っ得キーワード

常に揺れてるように感じる…「地震酔い」ってナニ?

揺れていないことをつるした5円玉で視認し、不安感を和らげる

 内藤綾子=医療ジャーナリスト

“地震酔い”の特徴は、ぐらぐら・ゆらゆらといったような横揺れ感のする浮動性のめまいだ。(©THEERAVAT BOONNUANG-123rf)

 連日、揺れに見舞われ、収まる気配を見せない熊本地震。繰り返す揺れは、「疲れが取れない」「食欲がわかない」「眠れない」といった、被災者たちのさまざまな体調不良を引き起こしている。

 中でも心配されているのは「地震酔い」と呼ばれる「地震後めまい症候群」だ。大きな地震を経験したあと、実際に地震が起きていないにも関わらず、あたかも揺れているようなめまいを感じるのが代表的な症状。景色がぐるぐる回るような回転性ではなく、ぐらぐら・ゆらゆらといったような横揺れ感のする浮動性のめまいが典型である。それに加え、動悸、冷や汗、不眠などに悩む人もいる。

東日本大震災では多くの人が地震酔いを経験

 広い範囲で強い揺れが観測された2011年の東日本大震災では、多くの読者が「地震は起きていないのに、揺れているように感じる」といった経験をしているのではないだろうか。

 実際に日本大医学部の野村泰之・診療准教授(耳鼻科)らが行った調査では、東日本大震災の後、東京近郊の成人1186名のうちの87.5%にめまいの症状を自覚したという報告がある。

船酔いに似ているが、原因はよく分かっていない

 一般的に体のバランスは、視覚情報と、平衡感覚を司る内耳の「前庭」が感知する頭の動きの情報足裏の感覚の3つが小脳で統合されて保たれている。これらのどれか一つでも整合がとれなくなると小脳が混乱し、めまいが起きる。めまいを専門とする東京医療センター耳鼻咽喉科の五島史行先生は、「地震が引き金になるめまいが、どの器官の異常で起こるかなどの具体的なメカニズムは、実はよく分かっていないのです。船酔いに似ていますが、メカニズムがまったく一緒というわけではありません。病気というより生理的な反応に近い」と話す。

精神的な不安感が悪化につながる

「また揺れに襲われるのでは」という不安感にさいなまれると地震酔いの症状が出やすくなってしまう。(©stellar001-123rf)

 ただし、身体的な原因に加え、「また揺れに襲われるのでは」という常に付きまとう不安感が、症状悪化に大きく影響していることは間違いないようだ。

 不安感には、感覚閾値(かんかくいきち)を下げる作用がある。「閾値」とは、人間が興奮するのに必要な刺激の最小値で、簡単に言うと“感じやすさ”のこと。感覚閾値が高いと「地震が来ても何とかなる、大丈夫」と思えるが、低いと「また地震が来たらどうしよう、これ以上被害が大きくなったら…」と怯えながら過ごすようになる。閾値が下がった状態では、ちょっとしたことで過敏になり、地震酔いの症状が出やすくなってしまう。

 五島先生によると、「揺れてる!」とめまいを自覚しても、周囲の人から「揺れてないよ」と指摘される場面を繰り返すと、「自分が変になったのでは…?」と不安感が増幅し、“地震酔い”がまた起こるという悪循環に陥るそうだ。「たいていは、揺れた感覚は1分ほどですが、ニュースなどで地震の悲惨な映像を繰り返し見たりすると、精神的ストレスも相まって、揺れた感覚がずっと続く人もいます」(五島先生)。そのような状態になると、家から出ることが怖くなって閉じこもり、うつ病につながる可能性なども出てくる。

「実際は揺れていない」ことをぶら下げた5円玉で確認

 もし、「地震酔いなのでは?」と心配になったら、どうすればよいのだろうか。

めまいを感じたら、ぶら下げた5円玉が揺れてないかを視認。不安感を和らげることが“地震酔い”の緩和につながる。

 「一番の改善法は、不安感をぬぐうことです。例えば、5円玉の穴にヒモを通して、フックなどにかけて天井などにぶら下げてください。めまいを感じたら、床に立ってぶら下げた5円玉を見つめてみましょう。『5円玉は揺れていない。地面が揺れているわけではない』と視認すると不安は和らぐはずです。これを繰り返すと、やがて症状が軽快していきます」(五島先生)。

 地震酔いの症状は、室内でじっとしているときに起こりやすく、歩行中など体を動かしている間には、あまり感じられない。家で大人しく過ごしているよりも、広い戸外へ出て視野を広げ、散歩に出かけるなど積極的に体を動かすこともお勧めだ。

 リラックスすることも大切なので、深呼吸、水やお茶を飲む、ストレッチ、音楽鑑賞など、日ごろの自分に合った方法で心身を休めることを心がけると、数週間から数カ月で自然に治ってしまう。

「外出できない」など生活に支障が出たら受診を

 日本に住んでいる限り、これからも地震と無縁ではいられない。幼少期に乗り物酔いや船酔いになっていた、もしくは今もなってしまう人、何事にも不安を感じやすい人、日ごろスポーツ習慣のない人などが地震酔いになりやすいので注意が必要だ。その他、感覚閾値が低い傾向がある片頭痛持ちの人、ストレスに弱い胃弱体質の人なども気をつけてほしい。

 めまいがいつやって来るのか怖くて、「電車に乗ることができない」「会社でパソコンに向かっても集中できない」「外に出られない」など、生活に支障が出るようなら、医療機関の耳鼻科を受診することを考えてほしい。「めまいを消失させる薬はありません。とはいえ、バランス感覚を確かめる前庭の検査などを行うと、多くは異常なしと診断されます。きちんと評価されたうえで『体が実際に揺れているわけではありませんよ』と専門医に言われることが特効薬となり、特にこれといった治療をせずに治ってしまうケースも少なくありません」(五島先生)。

五島 史行(ごとう ふみゆき)先生
国立病院機構東京医療センター耳鼻咽喉科医師
五島 史行(ごとう ふみゆき)先生 1994年慶応義塾大学医学部卒業。ドイツミュンヘン大学留学など経て、独立行政法人国立病院機構 東京医療センター耳鼻咽喉科に勤務。めまい平衡医学、耳鼻咽喉科心身症を専門とする。日本めまい平衡医学会賞、日本自律訓練学会ポスター賞受賞。耳鼻咽喉科心身医学研究会世話人。