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シャラポワが違反? 「ドーピング」って何?

市販薬やサプリメントでもアンチ・ドーピング規則違反になるものも

 田村知子=フリーランスエディター/中西奈美=日経Gooday

1月開催の全豪オープンテニスのドーピング検査で、自身の検体からドーピング違反と見なされる薬物が検出されたことを公表した、女子テニス選手のマリア・シャラポワさん。(©WiesAaw Jarek-123rf)

 2016年3月8日、元世界ランク1位の女子テニス選手、マリア・シャラポワさんが、1月開催の全豪オープンテニス(Australian Open)のドーピング検査で、自身の検体からドーピング違反と見なされる薬物(禁止物質のメルドニウム)が検出されたことを公表した。

 今年は、8月にリオデジャネイロオリンピック開催を控えていることもあり、ドーピングに関する報道が世間をにぎわせている。2015年11月上旬、ロシアの陸上界が組織的にドーピングを行っていたことが、世界アンチ・ドーピング機構(World Anti-Doping Agency:WADA)の第三者委員会の調査で確認された。さらに、ケニアでも、陸上競技で組織的なドーピングが行われた疑いが強くなり、国際大会への出場資格停止が検討されるといったニュースも記憶に新しい。

 それでは、どんな行為がドーピングにあたり、なぜ禁じられているのだろうか。アンチ・ドーピングについて知れば、「ドーピングしていないこと」を証明し、晴れの舞台に立つアスリート(スポーツ選手)への見方が少し変わるかもしれない。

なぜドーピングは禁止されているの?

シャラポワさんが出場した全豪オープンテニスでの様子。(2016年1月26日撮影、©Leonard Zhukovsky-123rf)

 ドーピングとは、アスリートが競技能力を高める可能性がある薬物などを不正に使用することだ。あらかじめ保存した自分の血液を、スポーツの競技会前に輸血する「自己血輸血」など特定の「方法」も、ドーピングとみなされる。また、ドーピング効果を持つ薬物の使用を隠す作用がある薬物を使った場合も、世界アンチ・ドーピング規程違反となる。

 ドーピングが禁止されているのは、それが「スポーツの価値」を否定する行為だから。フェアプレーの精神に反するだけでなく、アスリートの健康を害することになりかねない。オリンピックなどの国際的なスポーツ競技会では、「世界アンチ・ドーピング規程」に基づいたドーピング検査が行われる。また、国民体育大会(国体)など国内の競技会でもドーピング検査が実施されている。

 アンチ・ドーピング規則違反となる物質や方法は、WADAが定めた「禁止表国際基準(以下、禁止表)」に記載されている。

 禁止表によると、禁止となる物質や方法は、(1)常時禁止、(2)競技会時禁止(競技会前や期間中のみ禁止される)、(3)特定競技(自動車やアーチェリーなど)において禁止──の3つのカテゴリーに分けられている。

 このほか、検査で検出されても現段階では違反には問われないが、乱用を防止するために分析を行い、乱用されていることが疑われれば将来禁止される可能性がある物質や方法について、「監視プログラム」の対象としている。

アンチ・ドーピング規則違反となる物質や方法
  • 1.常に禁止される物質と方法

    (例)タンパク同化男性化ステロイド薬(AAS):いわゆる筋肉増強ステロイド薬。筋肉量・筋力の増加作用のほか、骨量や赤血球を増加する作用がある
     赤血球新生刺激物質(ESAs):赤血球の産生を促す薬物
     利尿薬:排尿を促し、禁止薬物の利用を隠す薬物
     自己血輸血:自分の血液を抜いて保存し、試合前に戻す方法

  • 2. 競技会時に禁止される物質と方法

    (例)興奮剤:交感神経を活発化させる薬物

  • 3.特定の競技で禁止されている物質や方法

    (例)アルコール:アーチェリー、自動車競技などで禁止

  •  
  • 【監視プログラム】

     このプログラムの対象となる物質や方法は、検査で検出されても現段階では違反には問われないが、乱用を防止するために分析を行い、乱用されていることが疑われれば将来禁止される可能性がある。

禁止薬物は1年に1回見直される

世界アンチ・ドーピング機構(World Anti-Doping Agency:WADA)が定めた「禁止表国際基準」。
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 日本アンチ・ドーピング機構(Japan Anti-Doping Agency:JADA)コーディネーターの鈴木智弓さんによれば「禁止物質や方法は、少なくとも1年に1回、1月1日に更新されています」という。

 冒頭の女子テニス選手のシャラポワさんも、WADAの禁止表が2016年1月1日に更新されたことが、ドーピング陽性となった理由だと会見で釈明した。医師から処方されていたとするメルドニウムは、日本では承認されていないが、主に心臓病の治療に使われる薬剤だ。心臓を保護する作用のほか、免疫の活性化やストレスの軽減作用などがあるという。

 メルドニウムは、2015年1月1日に監視プログラムの対象とされ、ドーピング検査における監視・分析がスタート。2016年1月1日には“競技力向上目的で競技者によって使用された事実がある”として、禁止表の「常に禁止される物質と方法」カテゴリーに掲載された。

 ちなみに、アンチ・ドーピング規則に違反すると、制裁措置を受けることになる。制裁期間中は、競技会への参加はもちろん、トレーナーやコーチとして指導に関わるなどの形でも、スポーツ活動には一切関われなくなる

 なお、医師から処方される治療薬に禁止物質が含まれていて、それが持病の治療に欠かせない場合には、「TUE(治療使用特例)」を事前に申請し、承認されれば使用が認められる。例えば、気管支喘息の治療に欠かせない気管支拡張薬(β2刺激薬)は、大量に使うと興奮作用や筋肉増強作用をもたらすため、禁止表では「常時禁止」とされている。しかし、アスリートに気管支喘息の持病があり、医師がその治療のために気管支拡張薬を処方する場合、TUE承認を事前に得ていればドーピング検査で気管支拡張薬が見つかってもドーピングとはみなされない。

市販薬やサプリメントにも規則違反になるものがある

市販薬やサプリメントであっても、禁止物質が含まれていれば、アンチ・ドーピング規則違反となる。(©Nolre Lourens-123rf)

 シャラポワさんのように医師から処方される薬(医療用医薬品)だけがドーピングとみなされるわけではない。市販薬やサプリメントであっても、禁止物質が含まれていれば、アンチ・ドーピング規則違反となる。実際に、国内で流通している市販薬の中にも、禁止物質が入っているものがある

 例えば、総合感冒薬(かぜ薬)の多くには、禁止物質であるエフェドリンやメチルエフェドリンなどが含まれている。胃腸薬にも、興奮剤と見なされるストリキニーネが配合されているものがある。また、サプリメントや栄養ドリンクは「食品」であるため、成分の表示義務がなく、ラベルには記載されていなくても禁止物質が含まれている可能性が考えられる。

 JADAのシニアマネージャー・打谷桂子さんは「アスリートは禁止物質や禁止方法を使用しないよう十分に注意し、自身が摂取するものに対して責任を持つことが求められます。たとえ意図せず禁止物質を使用したとしても、『知らなかった』では済まされません」と話す。

アンチ・ドーピングに薬剤師の力を借りる

「公認スポーツファーマシスト検索 」で全国のスポーツファーマシストが検索できる。
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 大規模な競技団体に所属するアスリートであれば、どのような物質や方法が禁止されているのか、最新の情報を競技団体経由で知ることができる。市販薬などに禁止物質が含まれていないかを、競技団体の医師や薬剤師に相談することもできるだろう。しかし、そうした環境にないアスリートの場合、禁止物質や禁止方法を避けるためのアドバイスを得ることが難しかった。このような状況を踏まえて育成された薬剤師が「スポーツファーマシスト」だ。

 スポーツファーマシストは、JADAが2009年に設立した「公認スポーツファーマシスト認定制度」で認定を受けた薬剤師で、最新のアンチ・ドーピングに関する知識や情報を持っている。「今では全国の病院や薬局、ドラッグストアなどに約6300人(2015年4月現在)が在籍しています」(鈴木さん)。スポーツファーマシストに相談したい場合は「公認スポーツファーマシスト検索 」で全国のスポーツファーマシストが検索できる。

 このほか、Global DROなど、ウェブサイトやスマートフォンから薬の成分に禁止物質が含まれていないかを検索できるシステムを活用することも有効だ。

アンチ・ドーピング違反は薬物使用だけではない

 世界アンチ・ドーピング規程で禁じられているのは、禁止薬物や禁止方法の使用だけではない。尿や血液を検体として採取するドーピング検査を拒否したり、改ざんを目的とした妨害や不正な改変を施す・企てることも、世界アンチ・ドーピング規程で定める「アンチ・ドーピング規則」への違反となる。

10のアンチ・ドーピング規則違反
  • (1)採取した尿や血液に禁止物質が存在すること
  • (2)禁止物質・禁止方法の使用または使用を企てること
  • (3)ドーピング検査を拒否または避けること
  • (4)ドーピング・コントロール(ドーピング検査の一連の流れ)を妨害または妨害しようとすること
  • (5)居場所情報関連の義務を果たさないこと
  • (6)正当な理由なく禁止物質・禁止方法を持っていること
  • (7)禁止物質・禁止方法を不正に取引し、入手しようとすること
  • (8)アスリートに対して禁止物質・禁止方法を使用または使用を企てること
  • (9)アンチ・ドーピング規則違反を手伝い、促し、共謀し、関与すること
  • (10)アンチ・ドーピング規則違反に関与していた人とスポーツの場で関係を持つこと
出典:「PLAY TRUE BOOK アスリートガイド 2015Code」(日本アンチ・ドーピング機構(JADA)発行)

 「スポーツに参加する条件として、アスリートがドーピングをしないこと、またそれを証明することは、当然の役割であり責務なのです」と鈴木さんは話す。

 アスリートや競技関係者だけでなく、スポーツを実践したり観戦したりするすべての人が、アンチ・ドーピングに意識を向けることで、スポーツの楽しさや感動をより味わえることだろう。

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