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失った顔を取り戻す「顔面移植」がもたらす幸福

容貌だけでなく様々な機能も回復

 大西淳子=医学ジャーナリスト

「パパ、すごくハンサムになったね」

 どの患者も、命が助かったのはほとんど奇跡といえるような災難にあい、顔を失いました。皆、皮膚移植や形成手術を何十回も受けましたが、「人間らしい顔」にはなりませんでした。想像を絶する体と心の苦しみは患者本人とその家族の人生をすっかり変えてしまい、患者のほとんどは自宅に引きこもって、孤独と闘っていました。

 2011年3月に米国初の顔面全移植を受けたDallas Wiens氏についてはハーバード大学のニュースサイトHarvard Gazetteに詳しく報道されました(*2)。手術の詳細は論文発表されています(*3)。5月の退院時には、患者本人が医師チームと共に記者会見に出席しました。

 Wiens氏は2008年に、高所作業車に乗って教会にペンキを塗っている最中に電線に接触、顔面に大火傷を負って、目、鼻、唇を大きく損傷し、頭頂部の頭髪や、聴覚以外の感覚も失いました。何度も形成手術を受けましたが、口以外はすべて皮膚で覆われ、唇と歯を失った口は閉じることができなくなりました。十分な唾液が出ないために口から食べることは不可能で、会話も不自由でした。

 適合する脳死ドナーが現れたため、30人を超えるスタッフが15時間をかけて、頭頂部の頭皮も含む顔面の全て、すなわち、皮膚、顔の動きに必要な筋肉、運動神経と感覚神経、血管と、まぶた、顎、唇、鼻、鼻の骨や内部構造などをWiens氏に移植しました。血管を丁寧に接続したおかげで、移植した顔は生着し、まもなく患者は、移植された鼻から呼吸し、匂いを感じられるようになりました

 Wiens氏は術後に自分の指で顔面に触れ、凹凸があることに感動しました。4歳だった娘のスカーレットは、病室を訪れた際に氏の膝にのぼって顔に触れ、「パパ、すごくハンサムになったね」と言ったそうです。Wiens氏は記者会見で「これで自分の人生に戻れる。家族と過ごし、娘にとって良い父親になろうと思う」と語りました。

 Wiens氏の皮膚の感覚は、退院後となる術後4カ月後の時点で一部回復し、筋肉も動くようになりました。さらにその後、口から食べ、普通に会話できるようになりました。残念ながら視力は戻りませんでしたが、今は盲導犬が目の代わりをしているようです。

 Wiens氏の例は、顔面全移植により、機能的な回復と容貌の大きな修正が可能であること、移植は、患者のみならず、患者とかかわる全ての人を救うことを示しました。崩れてしまった患者の容貌は、家族を含む周囲の人の心にも影を落とします。それが態度となって現れると、患者の心持ちと行動を変えてしまいます。顔面移植は、患者と周囲の人の心の負担を大きく減らすことができます。

頭蓋骨を包むほぼ全ての組織を移植する手術も成功

 2015年11月16日に米国で、これまでで最も広範囲にわたる、最も困難な頭皮顔面全移植を成功させたという報告がありました(*4)。New York大学Langone医療センターの100人を超えるスタッフが、26時間をかけて行った移植の対象となったのは、元ボランティア消防士のPatrick Hardison氏でした。

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