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救命救急医に聞く! 正しい診断を導くための話し方・伝え方のポイント(後編)

ニーズを伝えれば、満足度が上がる

 梅方久仁子=ライター

お医者さんに診てもらうときに、どうも話がかみ合わないことはないだろうか。どうすれば、受診後にすっきり満足するのか。日本赤十字社医療センター(救命救急センター)をはじめとする全国の病院で診療経験がある沖山翔医師に聞いた。前編はこちら

受診の目的を見つめ直す

前回は、いかに症状をうまく伝えるかについて伺いました。ほかに受診のときに気を付けることはありますか。

沖山 少し方向が違うかもしれませんが、私が考えていることをお話ししてもいいですか。

 患者として病院を受診する目的は何でしょうか。「病気を治すために決まっている」と言われるかもしれませんが、実際には案外多様なニーズがあると思います。

 例えば、「症状の軽減」が主な目的の場合があります。「自分が風邪であることは分かっているし、風邪が薬で治らないことも分かっている。でも、明日、この先1年の仕事がかかったプレゼンテーションがある。明日1日だけでも、のどの痛みを抑えて話せるようにしてほしい」とか。それから、「不安の除去」が主な場合もありますよね。「半年くらい前から、ときどき胸が痛む。痛みは軽いので全然困っていないけれど、ひょっとして悪い病気だったら、どうしよう。念のために診てもらおう」とか。

「ニーズ」を把握して言語化する

沖山 患者さんには、さまざまなニーズがあります。適切な診断を得たとしても、このニーズがうまく満たされないと、不満が残るでしょう。だからこそ、受診に際して「自分の目的を達成するにはどうするか」という視点で考えてみると、医師に伝える内容や伝え方が変わってくるのではないでしょうか。

受診の目的とは……
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 この目的を達成するためには、まずはもやもやした状態にある「ニーズ」を具体的に把握することです。そのためには、言語化のプロセスが必要です。ニーズを言葉にすると紙に書いて見せることもできるので、言いにくいことも伝えやすくなります。

 医師も、「この患者さんはこういうニーズを持っているんだ」と分かれば、「私が提供できるのはこれです」と、やるべきことが明確になります。先ほどの風邪の例でも、「風邪を引いたみたいです」と受診すると、「風邪は薬では治りませんよ。このくらいなら、栄養のあるものを食べて寝るのが一番です」と言われてしまうかもしれません。「明日はどうしてもはずせない仕事があって」と説明すれば、医師の側も「じゃあ、症状を抑える薬を出しましょう」と対応できます。うまくニーズを伝えられれば、受診後に満足できる割合がずっと高くなると思います。

文書にまとめると好印象

ニーズという考え方は、目からウロコです。紙に書くと、自分の考えを整理しやすいということもありますね。

沖山 そうですね。症状についても、「いつからこういう症状があります、このときからこう変わりました」と書いてみると、分かりやすく説明できます。

 患者さんの中には、外来で受診するときに自分の症状や希望をワードなどの文書にして、印刷して持って来られる方がいます。エクセルで血圧のグラフを作って来る人なんかもいます。

 こういう患者さんは、医師の間ではやはり印象がよいです。まず、主体的に自分の健康管理に関与しようとする姿勢が素晴らしいと感じます。それから、話すよりも読む方が速いので、多くの情報を短時間で得られます。直接の会話でないと得られない情報もありますが、実際問題として、とても助かります。

なるほど。話が少しそれますが、逆に医師の心証を悪くするようなことはありますか。以前、「この間テレビで見たこの病気ではないですか」と聞いたら、なんとなく医師の態度が変わったような気がします。

沖山 「テレビ」という言葉にいい印象を持たない医師はそれなりにいると思います。テレビは視聴率重視ですから、どうしても誇張した表現になりがちです。いくつか説がある中の一つだけを取り上げたりするのは、フェアではないと思います。

 これは賛否両論あるかもしれないですが、テレビで見たことがどうしても気になるときには「知人にこんな病気の人がいて、自分の症状と似ている気がしますが、どうですか」のように、少し話を変えて聞いてみてはどうでしょう。

言葉のキャッチボールをしたい

ところで、どういう症状のときにどういう病院に行けばいいのか、判断する方法はありますか。近所のクリニックがいいのか、大病院に行ったほうがいいのか、いつも迷います。

沖山 軽い病気なのか、危険な徴候があるのかを、医学知識がない患者さんが判断するのは簡単ではありません。迷ったときはどこでもいいから医師に診てもらって判断を仰ぐことをお勧めします。気軽に行けるという点では、近所のクリニックはいいですね。

 先ほどのニーズの話と同じですが、そのときに「ひょっとして悪い病気ではないかと気になります」と言えば、医師は不安を解消するような対応をしてくれると思います。「こういう徴候が出ていませんから、今のところは心配しなくて大丈夫ですよ」と詳しく説明したり、または、少しでも問題がありそうなら大きな病院を紹介したりしてくれるでしょう。

なるほど。ただ、いろいろと意見や要望をいうと、いわゆるモンスターペイシェント(身勝手な主張や理不尽な要求をする患者)と思われないか心配です。

沖山 私個人の考えですが、いろいろと要求する患者さんが問題だとはまったく思いません。困るのは、言葉のキャッチボールができないときですね。何を投げても受け取ってくれない人には、対処のしようがありません。医師と患者のコミュニケーションのずれが、「あそこの医者はダメだ」とか「あの患者はモンスターペイシェントだ」ということになるのだと思います。

 医師も患者も、互いにコミュニケーションを取ろうという姿勢が必要だと思います。そして、そのために患者さんができることは、やはり自分の要望を言葉にして書き出すことだと思います。

病院を変えるのも一つの方法

沖山 双方で気を付けるといっても、患者さんにはいろいろな人がおられますから、本当は医師の側が患者さんから積極的に話を引き出すようにするべきだと思います。これは医学界でも意識されていて、10年くらい前からは医学部でコミュニケーション技術を学ぶようになりました。試験もあって、患者役のモデルさんが「先生、痛い、痛い!」と騒ぐのを、医学生はうまく質問をして診断をつけなくてはなりません。このとき、適切な診断をしただけではダメで、どう話しかけたかなどのコミュニケーション技術も採点されます。もちろん、学校で習ったからといってすぐに上手なコミュニケーションはできませんが、新人医師がそういうことが重要だと認識するだけでも違うでしょう。

 ただ、カリキュラムが変わる前に医師になった人の中では、コミュニケーションに対する意識に多少ばらつきがあるかもしれません。

患者の側で努力しても、これはもうコミュニケーションする気が全然ないお医者さんだなと思ったら、病院を変えるのも一つの方法でしょうか。

沖山 それは一つの方法だと思います。それから、相手の状況によって対応を変えるという方法もあります。大きな病院の医師はかなり忙しくて、時間的な制約があります。専門的な医療は大病院で受けて、しっかり話を聞いてほしいときには、近所の診療所に行くというのも一つの手です。

コミュニケーションスキルを上手に使う

時と場合によって、患者の側でも対応を変えるということですか。

沖山 はい。これは医療だけではなく、レストランで食事をしたり、買い物をしたりするときも同じだと思います。店によって求めるものは違うので、対応を変えますよね。相手によって対応を使い分けるのは、社会人なら誰でも普通にやることだと思います。

 また、忙しくて話をすぐに切り上げられてしまいそうなときには、先に結論を伝えるという手も有効です。例えば、一通り話し終わったあとに、「実はその痛みがあったときに、3年ぶりに家族と親戚で集まって、パーティーを開いていたところで……」などと話し始めると、「あ、長くなりそうだ」と話をさえぎってしまう医師がいると思います。でも、その話の終わりのほうに、実はすごく重要な情報があるかもしれません。そういうときは、「実はこの頭痛と関連しているかもしれないのですが」と前置きしてから話せば、あまり中断されずに聞いてもらえると思います。

 こういったコミュニケーションのスキルは、受診のときだけでなく、人と人が関わるところでは、すべて関係してくると思います。みなさんが仕事で磨いたコミュニケーション力を、診察のときにもぜひ活用してください。

コミュニケーションのスキルはどんな場面でも求められる能力だが、医師が正確な診断をするためにも必要なようである。自分の健康状態を紙に書く習慣をつけて、こういったスキルを日々鍛えるのもいいだろう。紙に書くと情報が整理できるし、相手に正確に伝える能力が鍛えられるはずだ。診療で医師に診てもらうときも、また日経Gooday「マイドクター」で相談する場合にも、自分の健康状態や症状について正確に伝えたいものである。
沖山 翔(おきやま しょう)さん
日本赤十字社医療センター 救命救急センター 医師
沖山 翔(おきやま しょう) 1985年生まれ。東京大学医学部卒業。日本赤十字社医療センターでの臨床研修を経て、救命救急医、船医、離島医(石垣島・波照間島)、ドクターヘリ添乗医、DMAT(災害派遣医療チーム)隊員として勤務。東日本大震災では宮城県石巻市で被災地医療に従事し、不足する入院施設の新規立ち上げを行った。現在、株式会社メドレーで、医師たちが作るオンライン病気事典「MEDLEY」の医療情報監修を担当。

(インタビュー写真:稲垣純也)