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救命救急医に聞く! 正しい診断を導くための話し方・伝え方のポイント(前編)

問診票にはびっしり書いてほしい

 梅方久仁子=ライター

お医者さんに診てもらうとき、どうも話がすれ違ったような気がして、「ちゃんと分かってもらっているのかな?」と不安になったことはないだろうか。自分の症状をどう伝えれば、分かってもらいやすいのか。日本赤十字社医療センター(救命救急センター)をはじめとする全国の病院で診療経験がある沖山翔医師に、診察の際にどのような点に気を付けて話せばいいのか、そのポイントを聞いた。

沖山 翔(おきやま しょう)さん
日本赤十字社医療センター 救命救急センター 医師
沖山 翔(おきやま しょう) 1985年生まれ。東京大学医学部卒業。日本赤十字社医療センターでの臨床研修を経て、救命救急医、船医、離島医(石垣島・波照間島)、ドクターヘリ添乗医、DMAT(災害派遣医療チーム)隊員として勤務。東日本大震災では宮城県石巻市で被災地医療に従事し、不足する入院施設の新規立ち上げを行った。現在、株式会社メドレーで、医師たちが作るオンライン病気事典「MEDLEY」の医療情報監修を担当。

「いつ」「何が」「どこで」「どのように」

診察のときに、最低限これだけは患者さんから伝えてほしいという情報はありますか。

沖山 多くのクリニックや病院では、受診前にいろいろな質問が書かれた問診票に記入しますよね。医師は、それを基に症状に応じて、知りたいことを聞いていきます。患者さんの答えによって次の質問を変えていくので、すべてに共通して「これは言ってほしい」というのは難しいですね。

 ただ、仕事で報告するときと同じように、「いつ(When)」「何が(What)」「どこで(Where)」「どのように(How)」といった5W1Hの情報は、やはり大事だと思います。単に「頭が痛い」というよりも、「昨日の夜から、頭の右側が、ぎりぎり締め付けられるように痛い」のように説明していただけるといいと思います。

受診時に伝えたい5W1H
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 特に痛みなどの場合は、医師は症状と時間のかけ算というか、グラフのようなものを頭の中に思い描いていきます。例えば、ずっと痛いのか、あるときピンポイントで痛くて、しばらくすると治まったのか、だんだん強くなるのか。症状にも起承転結のようなものがあるので、出始めから、どう経過して、今はどうなのかを追っていくという思考回路です。そのために、医師は症状の現れた時期や持続時間を細かく尋ねていきます。

医師は、症状と時間のグラフのようなものを思い描く
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数字を使って、具体的に

時間による経過が重要なのですね。それを伝えるときに、気を付けることはありますか。

沖山 「最近」とか「ときどき」といったあいまいな表現ではなく、できるだけ「3日前」「1週間に1回くらい」といった数字で表現していただければと思います。

 それから、医師でも患者さんでも、人は自分の経験したことは相手も分かっているだろうと思いがちです。しかし、人によって経験は様々ですし、やはり言わなければ分からない部分もあるので、できるだけ言葉にして正確に伝えることが大事だと思います。

表現の仕方で勘違いしそうな言葉はありますか。

沖山 実は、医療の場面で誤解しやすい言葉はいくつかあって、「この言葉には気を付けなさい」と医学の教科書に書かれているくらいです。

 例えば「めまい」といっても、止まっているのに揺れているような感じのことだったり、急に立ち上がったときにくらっとすることだったりしますよね。「貧血」も、医学的には血液検査で血色素量(ヘモグロビン濃度)が一定値より少ないことを指しますが、「朝礼で立っていたら貧血で倒れた」とも言います。朝礼で倒れるのは、医学的には起立性低血圧という血圧の問題なのですが、一般的には貧血と呼ぶ人が多いでしょう。

 ただ、医学知識がない患者さんに「こういう言葉に気を付けて」と言って実行していただくのは難しいと思います。そのあたりは医師が気を付けて質問しますので、あまり気にしなくて大丈夫です。もし患者さん側で気を付けていただくとしたら、起こったことをなるべく具体的に話すことだと思います。例えば「昨日、めまいを起こしたんです」という言い方ではなく、「立ち上がった瞬間に目の前が暗くなって、意識を失いそうになりました」と説明していただくと医師にはよく分かります。

問診票はびっしり書いても大丈夫

問診票では、今飲んでいる薬について聞かれますけど、サプリメントや健康食品まで、書いた方がいいでしょうか。

沖山 それは、全部書いた方がいいと思います。私は診察のときには、あらためて「サプリメントや漢方は飲んでいますか」「風邪薬や痛み止めを飲むことはありますか」のように聞いています。「サプリメントは飲んでいません」と言う患者さんでも、「ビタミン剤はどうですか」と聞くと、「はい」と答えが返ってくることもあり、ここでも認識のずれをすり合わせる作業が必要になります。サプリメント関連では、表現を変えて5回くらい質問することもあります。それくらい医学的には重要な情報ですから、問診票には、ぜひ細かく書いてください。

問診票には、たくさん書いた方がいいのでしょうか。あまりびっしり書いたら、読むのが大変ではないかと思うのですが……。

沖山 時間があるようでしたら、問診票にはできるだけ細かく書いていただきたいです。診察時間は限られていますが、書かれたものは読みますし、話すよりも読む方が速いですよね。たくさん書いてあるのを見ると「熱心な患者さんだな」と良い印象をもつ医師は多いです。実際、情報が多いと診療の上でとても役立ちます。

 問診票だけでなく、問診のときには持っている情報は出し切ってもらうと助かります。

 医師は、最初に症状を大きくパターンで分けて、その後、それが本当に正しいかを一つずつ確認していきます。最初に「今日はどうしました?」と聞くのは、大まかなパターンを捉えようとしている段階ですから、そのときには、手がかりになりそうな情報は多いほど助かります。「吐き気は食後に出ますか?」といった細かい質問に入ったときは、医師の頭の中では自分の判断したパターンが正しいかどうかの確認作業に入っている状態です。一定の手順に従って聞いていくので、この段階では逆に、医師にある程度会話の流れを預けてもいいかもしれません。

健康診断の結果を活用しよう

質問されても、1年も前のことだとよく覚えていないときもあります。そんなときは、どうしたらいいですか。

沖山 それは、「たぶん夏頃でしたが、よく覚えていません」のように、正直に話すしかないのではないでしょうか。

 普段からの話になりますが、もし何かおかしいと思うことがあったら、何でも記録をつけるといいと思います。そのときは「病院に行くほどじゃないかな」と思っても、半年後、1年後と繰り返して、「やっぱり受診しよう」と思ったときに、1年前の記録があると役立ちます。いまはスマートフォンなどで、気軽にメモを残せます。血圧や体重の値を気軽に記録できるアプリもあるので、健康管理に活用すると便利です。

どんなことを記録するといいのでしょうか。

沖山 やはり、先ほどの5W1Hではないでしょうか。いつ、何をしているときに、どこが、どういう症状だったのか。

 医者の立場からすれば、情報はあればあるほど助かります。1人の診察に割ける時間は限られているので、その情報を得るために時間を延ばすことはできません。でも、決まった時間でできるだけたくさん情報を欲しいという思いは強いんです。

普段から観察しておくべきことはありますか。例えば平熱を測っておくとか。

沖山 血圧は測っておくとよいと思います。それから、はじめて行く病院なら、職場などで受けた健康診断の結果を持って来てもらえると助かります。その日病院で血液検査をして異常な値が出ても、ずっとその値なのか、いま上がっている途中なのかは分かりません。1年前の結果があるだけで、診断のしやすさが劇的に変わります。これも、スマホで写真を撮っておけば、持ち歩くのが負担になりません。

病院をころころ変えるのは、もったいない?

ところで、1、2回受診して薬をもらったのになかなか治らないと、別の病院に行ってみようかなと思いがちです。病院を変えるのは、よくないでしょうか。

沖山 医師は、治療についていくつかの選択肢を持っていることが多いです。最初はこれで試してみて、これがうまくいかなかったら、次はこれにしよう。それもうまくいかないときはこちら、という具合です。1番目の方法がうまくいかなかったというのは、すごく大切な情報なのですが、病院を変えるとそれがムダになる可能性があって、もったいないですね。

 しかし、患者さんが不安になるのは、医師が治療方針をきちんと伝えていないからだと思います。「最初にこれを試して、もし効かないようなら、次はこういう治療をするので、また来てくださいね」と言われていれば、たいていはまた行きますよね。ですから、不安になったときは、医師に質問してみるといいと思います。また、もし別の病院に行くときには、そこで「ほかの病院でこういう治療を受けました」ということは、できるだけ話してください。

病院を変えるのはできるだけ避けるとして、かかりつけ医は、もったほうがいいでしょうか。

沖山 まだ若くて年に何度も病院に行かないという人はいいのですが、慢性疾患があって定期的に診察を受けたり、複数の診療科にかかったりするようになったら、かかりつけ医はあったほうがいいと思います。さまざまな病院での診断名や薬や行われた処置の情報が共有されないと、問題が起こることがあります。自分の医療情報を自分で全部把握できるならいいのですが、胸の音がどうだった、といったような、自分では記録しにくい内容もあります。情報の共有は重要なので、今でも地域の医療機関で医療情報を共有する取り組みをしているところもあります。将来的にはどこで受診しても情報が共有されるようになると思いますが、今のところは、自分で管理するか、かかりつけ医に頼むかになりますね。

 医師が正確な診断をするためには、患者側からの正確で具体的な情報が必要なようだ。自分の健康状態をどう伝えるかは、日頃から自身の健康に留意し、普段と違う傾向があればメモを取るなどの習慣も必要だろう。日経Gooday「マイドクター」ではちょっとした体の“異変”があったときにも気軽に相談できるので、「医者に行くくほどのことではない」と思ったとしても、気になったことを相談できる。そんなときにこそ、微妙な体の具合を正確に相手に伝える「テクニック」が必要になってくるはずだ。正しい診断を導くための話し方・伝え方のポイントをしっかり押さえてから、医師に相談してみよう。

(インタビュー写真:稲垣純也)