食べ物は、胃に入ると胃液で溶かされてドロドロの液体状になり、そのドロドロの液体が胃の下部にたまり、空気は胃の上部にとキレイに分かれます(下左図)。そのため、立った状態では空気が少しずつ食道を上がり、口から出て行くことができます。
しかし、食べた後に仰向けになるとどうでしょう。空気が上(お腹側)に、液体が下(背中側)にたまると、背中側にある胃と食道の接合部が完全に液体で塞がれてしまいます(下右図)。食道に戻れない空気は全て腸に送り込まれてしまいます。
「おならが多い方は、食べた後に自分がどんな格好をしているかを思い返してみてください。横になったり、座椅子をリクライニングして深くもたれかかった姿勢で休んでいたりしないでしょうか。『食べてすぐ横になると牛になる』といいますが、あれは、牛はたくさんおならをするからではないかと私は考えています。高齢の方におならが多いのは、ご自宅にいることが多く、食べた後についごろごろしてしまうからという可能性もあります」(大毛さん)
大毛さんは、ためしに食後、体の右側を上にうつぶせ気味の姿勢をとってみてほしいと言う。「口から空気が出てきませんか。この姿勢だと胃からの空気が出やすいのです。赤ちゃんにミルクを飲ませた後に、肩にもたれかけさせて背中をポンポンと叩いてげっぷをさせますが、あれは、まさにこの姿勢です。軽く叩くことで、空気の層と液体の層が分かれて空気が口から出てくるのです。お母さんはどうやったら空気が出やすいか経験的に分かっているのでしょう」(大毛さん)
おならが多くて困っているというのであれば、胃の中に食べ物がある間、少なくとも1時間くらいは横にならない方がいいでしょう。また、食べた後に少し散歩するなど軽い運動をするのもお勧めです。歩いたりして体が揺れることで胃の中の液体と空気が早く分かれ、口から空気が出て行きやすくなります。
胃の手術をするとおならが多くなる
ほかにおならが増える原因として、大毛さんは「胃の手術」を挙げます。「外科医は知っていると思いますが、胃の手術をするとおならが多くなります。特に胃を全部とる胃全摘手術を施した人からは『先生、命は助かったけど、おならが止まらんよ』と文句を言われることは少なくないですね」(大毛さん)
胃全摘手術では、食道を直接腸につなぎます。胃は、食べ物をしばらくためて、消化しながら少しずつ腸に送るので、その間に空気が少しずつ口から出て行くことができるのですが、食道からいきなり小腸に食べ物が入るようになると、空気も腸のぜん動運動によってどんどん奥に運ばれてしまいます。そのため、胃全摘手術をすると、おならの量がすごく増えてしまうのです。胃を全部とらなくても、胃が小さくなるとおならは増えるそうです。