正解(乳がんのリスクとして間違った記述)は(2)肥満があるほうが乳がんのリスクが下がるです。
日本人女性約16万人のデータから乳がんのリスクを解析

愛知県がんセンターなどは2021年に、乳がんのリスクと飲酒の関係について日本人女性約16万人を対象にした大規模研究の解析結果を公表しました。それによると、日本人女性の乳がんのリスク上昇に、閉経前の飲酒頻度や1日あたりの飲酒量が関係することが分かりました。
愛知県がんセンターのがん予防研究分野分野長の松尾恵太郎さんはこう解説します。
「約16万人を平均14年間かけて調査した結果、2208人の方が乳がんに罹患していました。2208人のうち閉経前の方が235人、1934人が閉経後です。分析でまず明らかになったのは、閉経前の女性においては、飲酒頻度が高くなるほど乳がんの罹患率が上がるということです。そのリスクは、まったく飲まない人に比べ、週5日以上飲む人で1.37倍でした。また飲酒量についても、1日に23g以上飲む人の罹患リスクは、まったく飲まない人に比べ1.74倍と高い数字が出ました」(松尾さん)
それではなぜ、飲酒が乳がんのリスクを上げるのでしょうか。
「飲酒によって主な女性ホルモンであるエストロゲンの量が増えることが分かっています。乳がんとエストロゲンは密接な関係にあり、エストロゲンにさらされる期間が長ければ長いほど、そしてエストロゲンの量が多ければ多いほど、乳がんの罹患率が上がるといわれています。エストロゲンが乳がん細胞の中にあるエストロゲン受容体と結びつき、がん細胞の増殖を促すからです」(松尾さん)
また松尾さんによると、日本で乳がんの罹患率が昔に比べて上がっているのは「初経年齢が下がったことと、女性の社会進出に伴い子どもを持たない方が増えているという社会的背景も関係している」そうです。
初経年齢が下がれば、それだけエストロゲンにさらされる期間が長くなります。また、出産後はしばらくエストロゲンの分泌が抑えられるので、出産の回数が多いほど乳がんのリスクは下がるというわけです。
また、閉経後では飲酒と乳がんのリスクに有意な関係が見られなかったのはなぜでしょうか?
「日本人女性における閉経後の飲酒と乳がんの罹患リスクとに有意な関係が見られなかった理由の1つに『肥満の割合』があります。閉経後、エストロゲンは卵巣ではなく、主に皮下脂肪で作られます。欧米人に比べ肥満の割合が少ない日本人の場合、皮下脂肪で作られるエストロゲンがもともと少ないため、飲酒によってエストロゲンが増加する量も少ないため、乳がんへの影響が抑えられたと考えられます」(松尾さん)
松尾さんによると、「肥満度を表す数値として用いられるBMIが、25以上になると乳がんの罹患リスクが上がる」とのこと。
国立がん研究センターの「がんのリスク・予防要因 評価一覧」(*1)を見ると、「肥満」は閉経前の乳がんではリスクを上げる「可能性あり(BMI30以上)」、閉経後では「確実」にリスクを上げる、となっています。
将来の乳がんリスクのためには、飲酒量や飲酒頻度に加え、体重のコントロールも重要だといえそうです。