ウイルス感染の寄与が約9割と圧倒的に高い

肝炎ウイルス感染者は、現在、国民の2~3%と少ないのですが、キャリアと称される持続感染者の多くが高い確率で慢性肝炎から肝臓がんへと進展します。胃がんの場合は、ピロリ菌に感染していても、実際に胃がんになるのは少数ですから、ここが大きな違いになります。
肝臓がんがかつて増えた要因には、戦後まもない頃の劣悪な衛生環境が関与していると考えられていると津金さんは説明します。「社会的にはヒロポンなどの常用者が増え、回し打ちによってC型肝炎ウイルスの感染の温床になったこともあります。また、かつての医療現場で注射針の使い回しなどが行われていたこと、そして輸血や売血によって、C型肝炎ウイルス感染が拡大しました。また、B型肝炎ウイルスは出産時に母から子へと感染するケースにおいて、肝臓がんに進展しやすいことが分かっています」(津金さん)
その後、医療界はもちろん、社会的にも衛生観念が飛躍的に発達しました。さらに、「C型肝炎ウイルスの有効な治療薬も開発されて、肝炎から肝臓がんへと移行するケースが少なくなっています。なお、B型肝炎ウイルスが発見されたのは1964年、C型肝炎ウイルスが発見されたのは1989年で、検査法が普及したのは1990年代以降です」(津金さん)
こうした環境変化・対策により、肝臓がんは、1990年代後半まで罹患率は増加していましたが、その後、減少傾向に転じました。
国立がん研究センターでは、各部位のがんを引き起こす要因が、どの程度がんの罹患率や死亡率に反映されるか、というデータを推計しています (Ann Oncol.2012;23(5):1362-9.) 。これを「寄与割合」といい、その割合が大きいほど、その要因が変化したときに、がんの罹患率、死亡率も変わります。
「肝臓がんの場合、ウイルス感染の寄与が約9割と圧倒的に高いことが分かります。このほか、飲酒や喫煙もその原因となります。また、近年では、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)も発がん因子とされています」(津金さん)。