このうち「足の筋力・バランス力・柔軟力」の3つについては、なぜ大切なのかイメージできる方は多いでしょう。それに対して「握力」については、「なぜ関係あるのだろう」と不思議に思う方もいるかもしれません。
確かに、「握力=手のひらの力」というイメージがあるかもしれません。しかし、実は握力は全身の筋力を反映する鏡のような存在であり、下図のように40代から徐々に低下していきます。
「握力は全身の筋力と比例していて、握力が低い人は全身の筋力も低いことが分かっています。そのため握力は、『フレイル』の判定など、全身の筋力の程度を知る指標として使われています」(横山さん)
フレイルとは、加齢に伴って体力や食欲、意欲などが低下し、「虚弱」な状態に陥ることを指します。握力は、50代男性で約45kg、女性で約27kgが平均値とされますが(*1)、男性26kg未満、女性18kg未満まで落ちるとフレイルと判定されます(利き手の場合 *2)。フレイルは健康な状態と要介護の中間にあたり、可逆的な状態であるため、要介護状態に至る前に引き返すことが肝要です。
例えば、ペットボトルのフタを開けるには、約15kgの握力が必要となります。万一ペットボトルのふたを開けづらくなったら、すでにフレイルが始まっているというわけです。
ちなみに、スポーツクライミングの選手には、女性でも40~50kg、つまり一般の人の倍に相当する握力の持ち主がいます。リンゴをグシャッと手で握りつぶすときの握力は、さらに上の約70kgに相当するそうです。
「もちろん、一般の人がそこまで鍛え上げる必要はありません。でも、握力は日常生活でよく使う力なので、せめて平均値は割り込まないように維持してほしいと思います」(横山さん)
横山さんによると、握力を鍛えると、単に手の力が強くなるだけでなく、全身にさまざまな良い影響があるそうです。
「握力を鍛えるような簡単なトレーニングでも、筋肉が刺激されて収縮すると、筋肉からマイオカインという物質が分泌されます。マイオカインは万能ホルモンと呼ばれ、ダイエットやさまざまな病気の抑制、認知症の予防・改善、健康寿命の延長などに役立つと言われます。マイオカインが分泌されると、糖尿病・高血圧・動脈硬化といった生活習慣病のみならず、脳機能や認知機能の改善にも効果があるとされ、学習や記憶力の向上効果も期待できます。コロナ禍でのテレワークの合間にトレーニングをすることで、仕事の効率化にもつながるかもしれません」(横山さん)
運動不足を実感している方は、「週2~3回でOK!『巣ごもり老化』防止のための部屋トレ術」の記事などを参考に、「足の筋力・バランス力・柔軟力」だけでなく、ぜひ「握力」も意識して鍛えるようにしてください。
*2 現在のところ、フレイルの評価基準は統一されていない。一般的には、握力のほか、疲れやすさ、身体活動量の減少、体重減少、歩行速度の低下の5つのうち3つ以上該当すればフレイル、1~2つ該当すればプレフレイル(フレイル予備群)と判定されている。