久しぶりに会う親、どんな変化があれば認知症?
帰郷前に頭に入れておきたい!親の認知症の見分け方
伊藤左知子=医療ジャーナリスト
年末年始に帰郷し、久しぶりに親に会うという人は多いだろう。その際、何気ない会話の中で、「もしかしてうちの親、認知症になったのではないか?」と不安を覚えることもあるかもしれない。そこで今回は、日経Gooday連載「一から学ぶ、認知症」で紹介した川崎幸クリニック院長、杉山孝博さんのお話の中から、どんな症状が見られれば認知症を疑うべきかの話をピックアップしてお届けする。杉山さんによると、認知症は症状がかなり進まないと気付かれないケースが多く、1年に1回か2回帰郷する娘・息子では親の認知症に気付きにくいという。
単なる物忘れと認知症の違いって?

まず確認しておきたいのは、単なる物忘れと認知症の違いだ。
「相手の名前がとっさに出てこない」という経験は、高齢者のみならず、多くの人にあるだろう。このような物忘れが多少増えても、それは加齢によって起こる脳の衰えで、認知症ではない。だが、「いつも通っている場所の道が分からなくなった」「約束を頻繁に忘れるようになった」といったことが起こったら、それは認知症かもしれない。
認知症と加齢による物忘れを分かりやすく比較すると、体験の一部を忘れるのが加齢による物忘れで、体験そのものを忘れるのが認知症の特徴だ。
例えば、財布のありかがわからないとき、物忘れの場合、「どこにしまったか忘れてしまった」と頭を抱えることになるが、認知症の場合、「財布がなくなった。誰かが盗んだ」となってしまう。
また、認知症になると新しいことを覚えるのが難しくなるが、加齢による物忘れの場合、学習能力は保持されている。さらに認知症は徐々に進行するが、加齢による物忘れは、急激な進行、悪化はしない。また、自分は認知症かもしれないと心配するような人は認知症の可能性は低いが、物忘れが進行しているのに、自覚がない人は認知症である可能性が高いのだという。
物忘れ | 認知症 |
体験の一部を忘れる | 体験そのものを忘れる |
学習能力は保持されている | 新しいことを覚えるのが難しい |
基本的に進行、悪化はしない | 徐々に進行する |
物忘れの自覚がある | 自覚がない |
症状が進まないと、周囲からは分かりにくい
ただ、「単なる物忘れであれば、脳の老化で認知症ではない」と安心させておきながら申し訳ないが、認知症は、かなり症状が進まないと、周りがなかなか気づけないのも特徴である。
川崎幸クリニック院長、杉山孝博さんによれば、病院では「薬をちゃんと飲んでいる」と医師に答えているのに、別々に暮らす家族が家に行ってみたら飲み忘れの薬が大量に残っていたとか、電話ではきちんと生活しているような受け答えをしていたのに、実際にはごみ屋敷状態になっていた、ということが、認知症患者ではよくあるのだという。
認知症がなかなか気づかれない理由について、杉山さんは、「私たち人間は、人前では自分をよく見せたいという心理が働くので、たまにしか会わない人には普段の姿をなかなか見せない。だから、年に1回か2回帰郷する娘・息子には、認知症かどうか気づけないのです。やはり、最初に気付くのは一緒に住んでいる家族などの身近な人です」と話す。
とはいえ、核家族化が進んだ現代社会。自分とは別に暮らす親の認知症に早く気付きたいという人は多いだろう。どうすればいいのだろうか。