認知症の学習療法 「効く」と信じる工夫で意欲が向上
学習療法を取り入れたデイサービス 現場リポート
伊藤左知子=医療ジャーナリスト
表情や口調がポジティブになる利用者も
山口さんは、「人それぞれですが、認知症になり社会との接点も限られてしまうと、表情や表現がネガティブになる傾向があります。そういう人が学習療法を行うと、その効果は脳が活性化するだけにとどまりません。支援者と対面でコミュニケーションを取り、100点を取れる達成感などが刺激となって、表情や口調、会話の内容などに徐々にポジティブな変化が見られます」と話す。
例えば、軽度認知症で精神的にもうつ傾向にあった女性利用者のAさんは、最初にふくろう舎に来たときは、笑顔が少なく、書道をしても震える字で小さく文字を書いていたという。しかし、ふくろう舎に通って数カ月もたつと、見違えるように明るくなり、服装にも気を使うようになったそうだ。書道の文字も大きくしっかり書くようになり、その変化に山口さんは驚いたという。
山口さんがデイサービスを実施していくに当たって心掛けているのは、「介護職は専門職、研究職である」という理念だ。専門職であるという意識を持ってもらうことで、スタッフの観察力が高まり、利用者の日常生活の変化に気づけるようになった。また利用者一人ひとりの可能性に気づき引き出す能力も高まっているという。
また、「より良い介護を提供していくためには、毎月の活動データを分析し、利用者のご家族、ケアマネジャーさんに報告し、私たちが行っている仕事をきちんと知ってもらう必要があると思っています」と山口さんは話す。
こうした努力により、ふくろう舎の利用者は、学習療法をしているときもグループ学習をしているときも、笑顔が絶えない。スタッフと、あるいは利用者同士でコミュニケーションを取りながら学習するのが楽しくて仕方がないという印象だった。
ふくろう舎は開設から4年目。認知機能の維持・改善の効果については、さらにこの先5年、10年後の報告を待ちたいが、利用者の様子から、学習療法が認知機能の維持・改善およびうつや問題行動といった周辺症状の改善に役立っていることは感じられた。
(カメラマン 室川イサオ)