80歳でも新しいことを 認知症の予防教室、現場を拝見
伊藤左知子=医療ジャーナリスト
ほとんどの人が100点満点をとれる!
体操が終わったら学習開始。「読み書き」「計算」のテストをした後に、「すうじ盤」と呼ばれる作業を行う。前回の記事で紹介したように「脳の健康教室」が取り入れているのは認知症の予防を目的とした学習療法で、新しい知識を増やすなどの勉強が目的ではなく、脳のトレーニングが目的だ。よって、テストはその人に合ったレベルの教材が用いられ、ほとんどの人が100点をとれるようになっている。
「読み書き」は簡単な単語やことわざ、童謡といったものから、紀行文や文学作品まで、その人に合った教材を使用。参加者は、テキストの文字や文章を声に出して読み、レベルによっては言葉の書き写しなどをする。「計算」もレベルに合わせて、たし算、ひき算から、九九やかけ算まで、その人に合わせたテキストが使われる。「すうじ盤」は、数字が順番に書かれたシートの上に、同じ数字が書かれた磁石入りのチップを選んで置いていくという簡単なゲームである。
参加者の一人は、「この年になって毎回100点満点がとれるのが楽しい」と話す。
最後に残った時間で、支援者と参加者で日々あったことなどを話すコミュニケーションタイムを過ごして終了となる。
最初は笑顔が少ない人も次第に笑顔に
参加者のAさん(女性)は、「この教室の日は、受講が終わったら、ここで知り合った友達と映画に行ったり、食事に行ったりして過ごすんですよ」とうれしそうに話す。Aさんは今年90歳。白井脳いきいき教室に通うようになって10年になるという。
笑顔が印象的なAさんだが、ここへ来たきっかけはご主人との死別。「主人が亡くなってから私が寂しい顔をしていたのか、嫁が区役所でいきいき教室の募集を見つけ、行ってみたらと勧めてくれたのよ。行って嫌だったらやめればいいんだからと言われて来てみたら、楽しくて、楽しくて。やめるどころか10年があっという間に過ぎてしまいました」と笑いながら話す。
一緒にいた友達のBさん(女性)は86歳。彼女も通い始めて8年。白井市に引っ越して1年たった頃、家にこもっていないで何かしなければと思っていた時に、募集を知り、通うようになったという。二人とも、まだまだ認知症とは無縁。とにかく明るくて元気だった。
二人が特殊なのかと思ったが、支援者をしているボランティアスタッフに話を聞くと、長く通っている80歳代、90歳代は他にもたくさんいるのだという。また、スタッフは口をそろえて「最初は笑顔が少ない人も、1カ月もすると、にこにこ笑うようになって、身なりもどんどんおしゃれになって、私たちも刺激を受けます」と話す。
「10年もたつと私たちも年を取ってそろそろボランティアをやめようかなと思うのですが、ここへ来るのを楽しみにしてくれている人がいると思うとやりがいを感じて、なかなかやめられないんですよね」とも話していた。
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