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一から学ぶ、認知症

「ぼけますから、よろしくお願いします。」 実娘が撮った認知症の母と耳の遠い父

認知症の母と耳の遠い父、実娘が撮った暮らしぶりが映画に

 伊藤左知子=ライター

 「Mr.サンデー」で番組をご一緒した認知症の専門医である和光病院院長の今井幸充先生が、「介護はプロとシェアしなさい」とおっしゃっていて、そうだなと思いました。「プロができることはプロのほうがうまいから任せる」ということです。例えば、入浴介助は家族がやろうと思うとけっこう大変で、介護される側も下手な人にやってもらうと気持ちよくないんですよね。やはり研修を受けたプロがやったほうが気持ちがいいし、安心です。

 家族も重労働しなくていいからストレスがその分たまらない。そういうプロができることは、プロに任せて、私たち家族は、「家族にしかできない、本人を愛してあげることをやりなさい」と言われて、なるほどと納得しました。

 正直に言えば、私も「女なのに」「娘なのに」と思って、ヘルパーさんに入ってもらうことに引け目があったんですね。洗濯とか料理は娘がしなければならないことじゃないかと思って。でもそれをやればやるほど肉体的に負担になって、いらいらして、母に冷たくしてしまうかもしれない。そういうことがないようにするためには、プロとうまくシェアして、家族は愛することに徹することが大事なんだなと思いました。

認知症は悲観することではない

 それから母が認知症になって分かったのは、認知症はそんなに悲観することじゃないということです。逆にいいこともありました。私は若い頃から母が大好きで、いつも母とガールズトークをしていたんですね。父はといえば新聞読みながら、加わりたくても加われなくて眺めていたんですよ。そんな感じで私は父とは接点がなく少し距離がありました。

 それが母の認知症で、父と話をするようになったんです。母が認知症になったとき私は50歳だったのですが、それまでの50年とそれからの5~6年で、後の5~6年のほうが全体量として父と話しているんですよ。

 父は、それまで「男子厨房に入らず」で家事なんてやったこともなかったのに、母の認知症が分かってからは、料理をしたり、縫い物をしたり、何でもしてくれる。やってみたら案外できるので本人も楽しくなったみたいで、そういう前向きな性格とか、いいところをたくさん発見できました。若い頃は真面目なだけでダサいななどと思っていたのですが、「女房がピンチになったときにここまで助ける男なのか」という発見もあり、そういう意味では父をますます好きになれてよかったと思います。

(C)「ぼけますから、よろしくお願いします。」製作・配給委員会

 もう一つ、これはいいことと言っていいのか分かりませんが、私は母が大好きなので、もし突然母が亡くなっていたら喪失感がとても大きかったと思うのですが、認知症になって徐々に今までの母ではなくなっていくのを見ていくことで、なんだか諦めがつくようなところがあります。神様が親切に時間をかけて、私の前から母の存在を消してくれているように思えるんです。ただ、その分、父と仲良くなりすぎたので、父が亡くなるときは、こんなに悲しくなるはずじゃなかったのにと思うかもしれませんが(笑)。

最後にこの映画で信友さんが伝えたいことは何かをあらためて教えてください。

 この映画は、大切な家族を思い出しながら見てもらいたいですし、ご自分の大切な方の今後を考えるきっかけになればと思って作りました。また医療、福祉、介護関係の方々には、家族にしか見せないブラックな顔も見せていますので、参考になればいいかなと思います。

 これを撮影するときは娘なので主観は入るのですが、ナレーションはごく少なくして編集にも間をもたせて、見る方に考えてもらう時間をつくり、一家族の流れを客観的に見せられるように心掛けました。

 実は、これは撮ってないで手伝ったほうがいいんじゃないかと思ったシーンもいくつかあったんですよ。例えば、母が洗濯の途中で洗濯物が散らばった床で寝てしまうシーンとかは、絵としては良いシーンなのですが、娘としては手伝わなければと葛藤しました。それでもう十分撮ったから手伝おうと思ったら父がひょこひょこ来て、母をまたいでトイレに行く。「洗濯しとるんか」「まだ水も入れとらん」「まあゆっくりやれや」なんて会話して。ああ、これが二人の日常なんだなと気付いて……。

 老老介護とか、認知症というと深刻で暗いイメージになるのですが、父と母の日常はユーモラスで、まあ、二人が明るいキャラクターだから私も監督として映画にしようと思ったというのもありますが、そういう何でもない日常を見てもらいたいと思います。

(C)「ぼけますから、よろしくお願いします。」製作・配給委員会

◇     ◇     ◇

 最後に、映画撮影後のお二人はどうしているのか聞いてみたところ、「実は母はつい最近、脳梗塞を発症し、現在は入院治療しています」と信友さん。お父様は自宅でひとり暮らしをしているそうだ。「脳梗塞にはなったけれど、見舞いに行けばまだ私が直子だと分かっていて、遠くから心配して来てくれて悪いねと言ってくれています」

 「認知症はいろいろシミュレーションしていても、何が起こるか分からない。分からないなら、今日を楽しむしかない。本当にそう思うようになりましたね」と笑いながら話す信友さんは常に「前向き」。それが認知症の家族を支える秘訣かもしれないと思った。

信友直子(のぶとも なおこ)さん
ドキュメンタリー監督
信友直子(のぶとも なおこ)さん 1961年広島県生まれ。84年東京大学文学部卒業。86年から映像制作に携わり、フジテレビ「NONFIX」や「ザ・ノンフィクション」で数多くのドキュメンタリー番組を手掛ける。「ザ・ノンフィクション おっぱいと東京タワー~私の乳がん日記」でニューヨークフェスティバル銀賞・ギャラクシー賞奨励賞を受賞。他に北朝鮮拉致問題・ひきこもり・若年認知症・ネットカフェ難民・アキバ系・草食男子などを取り上げてきた。本作が劇場公開映画初監督作品。

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