認知症予備軍から認知症にならないための予防策
デュアルタスクで脳の血流量を増やす
伊藤左知子=医療ジャーナリスト
認知症の一歩手前の段階である軽度認知障害(MCI)や、放置すると認知症に移行する可能性の高いうつ病性仮性認知症と診断されたら、どうすればいいのだろうか。今回は、認知症予備軍から本当の認知症にならないための予防策を紹介する。
認知症予防は脳の血流量を増やす対策を
「軽度認知障害」も「うつ病性仮性認知症」も、発症のメカニズムは違うが、脳の機能不全で起こる障害である。脳が機能不全を起こしている部位は血流量が極めて低いことが特徴だ。脳に送り込まれる血流量は加齢に伴い低下するため、何か原因があると、若いときに比べて機能不全を起こしやすくなるのである。逆にいえば、脳の血流量を増やせば、何かあっても障害は起こりにくいといえる。
よって、認知症にならないためには、脳の血流量を増やす対策をすればいいということになる。
ではどうすればいいのか。
「脳の血流量を増やし、脳の機能を高めるための方法は3つ。運動と休養と栄養です」と話すのは、前回(「治療で改善する『うつ病性仮性認知症』ってどんな病気?」)と前々回(「認知症の一歩手前、『軽度認知障害(MCI)』とは?」)に軽度認知障害とうつ病性仮性認知症について教えてくれたメモリークリニックお茶の水の院長で、東京医科歯科大学の特任教授も務める朝田隆さんだ。
この3つの中でも特に大切なのが運動だと朝田さんは話す。以前から有酸素運動が脳の活性化にいいことは知られているが、具体的に脳にどう作用するのだろうか。
「有酸素運動は、特に脳の前頭葉の機能を高めてくれることが分かっています。前頭葉はうつ病性仮性認知症で機能が低下する部位。つまり、有酸素運動はうつ病性仮性認知症に有効であるといえます」と朝田さん。

また、最近はデュアルタスク(二つの課題を同時に行う動作)で、有酸素運動と一緒に、計算など脳を使う作業をプラスすることにより、前頭葉だけでなく頭頂葉の機能も高めることが分かってきたという。
「頭頂葉は、方向感覚、構成行為などの機能を司る部位で、認知症の人が道に迷ったり、服を着る手順が分からなくなったりするのは、この機能が低下するためです。デュアルタスクを行うと、前頭葉に加えて、この頭頂葉の血流が良くなることが分かってきたのです」と朝田さん。
朝田さんのお薦めは、2日に1回、30分以上のウォーキング(有酸素運動)に、脳を使う作業をプラスしたデュアルタスクだという。
「30分間、散歩をしながら、例えば、100から7をひたすら引いていく引き算や、一人しりとりなどを行うといいでしょう。あるいは景色を楽しみながら川柳を作るといった作業もお勧めです」と朝田さんは話す。
認知症予防に効果的な運動のポイント!