笑顔が正解とは限らない!認知症の人と心を通わせる本当のコツ
認知症患者との対話法「バリデーション」、家庭でできる5つのテク
伊藤左知子=医療ジャーナリスト
2016年9月8日の記事「暴言や徘徊がなくなる!?認知症患者を救う奇跡の対話法『バリデーション』」で紹介し、大きな反響を得た認知症の人との心の通うコミュニケーション法「バリデーション」。認知症が進んでも最後まで失われない機能「感情」に働きかけるとして注目されているこの対話法について、今回は家庭でも行えるテクニックを、関西福祉科学大学社会福祉学科教授の都村尚子さんへの取材を基に紹介する。
バリデーションは感情を表出させる対話法

まずはバリデーションについて、簡単におさらいしよう。バリデーションは、認知症が進行しても最後まで失われない機能「感情」に働きかけ、認知症の人に共感することでコミュニケーションする対話法である。アメリカのソーシャルワーカーであるナオミ・ファイルさんによって1960年代に開発された。
認知症になると、徐々に認知機能が低下していく。現在の年月や時刻、自分がどこにいるかといった基本的な状況把握のことを「見当識(けんとうしき)」、その能力が衰えないよう「今日は何月何日か」といった質問を繰り返す方法を「見当識訓練法(リアリティーオリエンテーション)」というが、これを毎日行っても、いずれ認知機能は低下し、見当識は失われてしまう。
そうすると認知症の人は、自分では「間違っていない」つもりなのに、周囲に間違いを指摘され混乱するばかりとなる。やがて介護者との間に感情のあつれきが生じ、それが暴言や徘徊といった周辺症状へとつながってしまう。
そこで、見当識という失われていく機能ではなく、最後まで失われない感情に焦点を当てたコミュニケーション法が「バリデーション」だ。バリデーションを用いれば、初期から末期の認知症の人まで、どの段階であっても意思疎通が可能となる。
しかし、それは認知症の人の感情を抑え、静かにさせることとは違う。
「バリデーションが目指すのは、認知症の人が、怒りや悲しみも含めて感情を表に出し、その人が生きてきた意味や価値を確認する手助けをすることです。バリデーションを実践することで、介護者と認知症の人との間に信頼関係が築かれ、互いに共感することが可能となります。さらに、認知症の人が生きる希望を持つことができ、絶望を避けることができます」と、関西福祉科学大学社会福祉学科教授で、日本で最初のバリデーションティーチャーとなった都村尚子さんは話す。
介護者と気持ちが通じ合うことで、暴力や徘徊も減らせる
また、介護者と認知症の人の気持ちが通じると、二次的な効果として、徘徊や暴力、食事の拒否といった周辺症状が軽減されるのだという(バリデーションについて詳しく知りたい方は「暴言や徘徊がなくなる!?認知症患者を救う奇跡の対話法『バリデーション』」をご覧ください)。
では、バリデーションはどのように行えばいいのだろうか。
「バリデーションにはいくつかのテクニックがあり、介護現場でバリデーションを行っている専門家は、認知症の症状や進行具合に応じて、使い分けています。これらのテクニックの中には、ご家庭でもできる方法がいくつかあります。特にご家庭で役立つテクニックは、(1)アイコンタクト、(2)カリブレーション、(3)リフレージング、(4)ミラーリング、(5)タッチングの5つです」と都村さん。
これら5つの方法について、一つひとつ解説しよう。