糖尿病の親が認知症になったらすべきこと
認知症かどうかで変わる!高齢者糖尿病の血糖管理目標
伊藤左知子=医療ジャーナリスト
日本糖尿病学会と日本老年医学会は合同委員会を作り、高齢者糖尿病の診療ガイドラインの作成を進めているところだ。それに先駆け、治療目標の目安となる「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」をつくり、今年5月に発表した。
糖尿病の人は認知症になりやすく、認知症になると糖尿病が悪化しやすくなることが分かっている。そこで新しい高齢者糖尿病の血糖コントロール目標は、認知症を考慮した内容になっている。今回は、高齢者糖尿病の血糖コントロール目標と認知症の関係、そして、私たちは実生活でどんなことに気を付ければいいかについて解説する。
従来の血糖コントロール目標とは

糖尿病は、食事などから体内に取り込まれた糖をエネルギーに代謝するために必要なインスリンの働きが悪くなったり、あるいはインスリンの分泌が足りなくなることで、血液中の糖(血糖)が過剰になる病気である。
血糖値が高い状態(高血糖)が続くと、腎臓病や網膜症、神経障害、動脈硬化、脳血管障害、足壊疽(えそ)などの足病変(そくびょうへん)、そして認知症といった合併症を起こす危険性が高くなるため、血糖値を下げる治療が必要となる。
そのときに治療を決める目安となるのが、血糖管理目標である。糖尿病患者の血糖管理目標は、2013年6月1日に日本糖尿病学会が発表した「血糖コントロール目標」(図1)が目安となる。これは成人のすべての糖尿病患者が対象で、ヘモグロビンA1c値(HbA1c値、※1)6.0%未満、7.0%未満、8.0%未満の3つの目標値を設けている。合併症予防のための目標値は7.0%未満である。
高齢者糖尿病のための血糖コントロール目標
「血糖コントロール目標」の治療目標は、年齢、糖尿病になってからの期間、臓器障害の有無、低血糖の危険性、家族などのサポートがあるかどうかなどを考慮して、個別に決められるが、65歳以上の高齢者は若い人に比べ、さらに様々な配慮が必要となる。
というのも、高齢者は老化により、身体機能の低下や認知機能の低下などの老年症候群(※2)を合併することが少なくない。そして、あとで説明するが身体機能や認知機能の低下は、血糖値のコントロールを難しくさせ、薬物治療による低血糖も起こしやすくするためだ。
そのため、例えば合併症予防のための目標7.0%未満も、血糖コントロールの難しい高齢者では、状態に応じて8.0%未満に緩和する必要があると提唱されてきた。しかし、従来の「血糖コントロール目標」では、どんな状態だと8.0%未満にするかといった具体的な基準は明示されていなかった。
そこで今回、日本糖尿病学会と日本老年医学会は合同委員会を作り、高齢者糖尿病の適切な評価に基づく「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」を作成したのである。それが次ページに掲載した図2の表だ。
※1 ヘモグロビンA1cとは、血液中のヘモグロビンというたんぱくとブドウ糖が結合したグリコヘモグロビンの一種で、ヘモグロビンA1c値は、過去1~2カ月の血管内の過剰なブドウ糖の割合が推定できる検査値である。
※2 加齢により起こる身体的、精神的諸症状、疾患の総称。
注1) 適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合、または薬物療法中でも低血糖などの副作用なく達成可能な場合の目標とする。
注2) 合併症予防の観点からHbA1cの目標値を7%未満とする。対応する血糖値としては、空腹時血糖値130mg/dL未満、食後2時間血糖値180mg/dL未満をおおよその目安とする。
注3) 低血糖などの副作用、その他の理由で治療の強化が難しい場合の目標とする。
注4) いずれも成人に対しての目標値であり、また妊娠例は除くものとする。