認知症、早期発見のメリットは?
家族の心構え、介護保険の利用のためにも早期発見は重要
伊藤左知子=医療ジャーナリスト
認知症は早期発見が大事だといわれるが、実際、早期発見・早期治療で治るものなのだろうか?また早期治療以外にも、早期発見のメリットはあるのだろうか。実は、認知症を早期発見することは、本人にとっても家族にとっても、その後の生活の質を大きく変えるメリットがある。今回は早期発見のメリットについて紹介する。
早期発見でも認知症は治らないが…

「認知症の中で最も多いアルツハイマー型認知症は、残念ながら、早期発見できたからといって治療で治る病気ではありません」と、認知症の患者さんを多く診てきた川崎幸クリニックの杉山孝博院長は話す。
最初からショッキングな事実だが、では、早期発見のメリットはないのだろうか。杉山さんは「そんなことはありません。認知症を治すことはできませんが、治療により認知症の進行を遅らせることは可能です」と話す。アルツハイマー型認知症には病気の進行を抑える治療薬が4種類出ており、治療開始が早いほど効果も期待できる。
また、中には「治る認知症」もある。「正常圧水頭症、慢性硬膜下出血、脳腫瘍などが原因であれば、脳外科的な治療を行うことで症状が驚くほど改善する場合もあります」と杉山さん。ただし、これらの病気に伴って血腫や脳脊髄液による脳の圧迫状態が長く続くと、治療効果は望みにくいので、やはりできる限り早い治療が求められる。つまり早期発見が重要なのである。
認知症を受け入れるためにも早期発見は大事
治療効果の面で早期発見が大事なことは分かったが、実は、それ以上に、周囲の人たちの困惑を解消するためにも、早期発見は大切なのである。「それまで、『最近わがままになった』『頑固さが増した』『くどい』『言動が異常だ』などと思われていた人が、『認知症』という病気だと診断されることによって、『ああ、これまでのことは病気による症状だったんだ』と理解されれば、身近な人たちも冷静に対処できます」と杉山さんは早期発見のメリットを語る。
「誰でも加齢に伴い脳の機能が衰えていくものです。大切なのは、本人やご家族が、その変化を受け入れられるようになることです」(杉山さん)。
医療の進歩により、私たちの寿命は昔に比べ大幅に延びた。とはいえ、いずれ身体の機能が衰えていくのは当たり前のことである。脳も身体の機能のひとつなのだから、いずれ同様の事態が生じる。徐々に起こる変化を受け入れる心構えができることが、周囲にとっての早期発見の最大のメリットといえるかもしれない。
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