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一から学ぶ、認知症

話しながら歩くのが苦手な高齢者は「認知症予備軍」の可能性も

歩行機能と認知機能の関係

 金沢明=ライター

 「高齢者は、ただ年齢に応じてゆっくりと歩いているだけなのに、その速度だけで認知機能の低下と関連づけるのは行き過ぎではないか」「歩行速度が遅くても認知機能はしっかりしている人はいるし、逆に、歩行速度は問題なくても認知機能に衰えが見られる『隠れた認知症予備群』の人もいるのではないか」といったことが、最近、研究者の間で言われ始めた。歩行の中でもスピードだけでなく、本人の意思が働かない部分で認知機能との関連を見たほうがよいのではないかということだ。

「何かをしながら歩く」は意外に難しい

 そこで、歩行速度だけでは見つけることができない「隠れた認知症予備群」を見つける指標の候補になるのではないかと注目されるようになった一つが、「二重課題条件下での歩行速度」だ。これは、何か頭を使うような認知的な活動を行いながら歩く時の速度で、昨今問題になっているスマートフォン(スマホ)の「ながら歩き」もその一つ。「スマホのながら歩き」は老若男女問わず推奨できない行為だが、「会話をしながら歩く」「計算をしながら歩く」といったことも「ながら歩き」の一種であり、こうしたことは高齢者にとってはちょっと難しい課題といわれてきた。

 ある研究(*3)では、歩行中に話しかけられた高齢者の中で、「話すために止まってしまった人」と「歩きながら答えた人」を6カ月間追跡し、その期間に転倒した人の割合を調べた。すると、「止まってしまった人」は、その8割ぐらいが6カ月の間に転んだ。一方「歩きながら答えた人」のほとんどは、6カ月の間に転倒しなかった。

 つまり、「何かをしながら歩く」という、注意を両方に適切に割り付けることができる能力は、歩行する場合にはきわめて重要で、安全な歩行のためには必須の能力と考えられるのだ。

 最近、こうした「二重課題」の処理能力が認知機能とも関係しているのではないかといわれている。例えば日常生活では問題を抱えていない72歳の健康な高齢者Aさんのケース。普段はスタスタと歩ける。しかし、計算課題の「50から1を引き続けながら歩く」をやりながら歩いてもらうと、歩くスピードが極端に遅くなる。これはおかしいということで、詳細な検査をすると、軽度認知障害(認知症の一歩手前の状態でもの忘れなどはあるが日常生活には支障がない)の傾向があることが分かった。

 このように普段、普通に歩いている分には何の問題もないのだが、話しかけるなど、何か認知的なストレスをかけると歩く速度が真っ先に落ちてくる人ほど、認知機能が衰えている傾向が見られる。さらに、こうした「二重課題」の成績が悪い人ほど将来認知症になる可能性が高いことが、2017年、カナダのマニュエル・モンテロ-オダッソ教授らの研究チームによる100人余りの軽度認知障害の高齢者を6年間追い続けた研究によって明らかになった(*4)。

 この研究で歩きながらやってもらった課題は、「100から1ずつ引いていく」「100から7ずつ引いていく」「動物の名前を言えるだけ多く言う」の3つ。普通に歩いた場合の速度と、課題をやりながら歩いた場合の速度を測り、後者の場合どれだけスピードが落ちるかを指標にする。6年間の研究の結果分かったことは、「二重課題」の成績が悪い人、つまり、計算や動物の名前挙げをしながら歩くと歩行スピードが落ちやすい人ほど、そうでない人に比べて2.4倍から3.8倍、認知症発症のリスクが高くなるということだった。

*3 Lundin-Olsson, et al.Lancet. 1997;349(9052):617.
*4 Montero-Odasso, et al.JAMA Neurol. 2017 Jul 1;74(7):857-865.

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