親が初期認知症のうちに家族で決めておきたいこと
気になる「おひとり様の認知症対策」も
伊藤左知子=医療ジャーナリスト
認知症は認知症予備群の軽度認知障害(MCI)から初期認知症、中期認知症と、徐々に進行していく。初期の段階では自分で判断できていたことが、中期以降になると、難しくなってくる。そのため、認知症とともに自分らしく生きていくためには、少し先のことを家族と話し合っておくことが必要だ。どんなことを話しておけばいいのか。おひとり様の場合の準備の仕方も含めて東京都健康長寿医療センター 認知症疾患医療センター精神保健福祉士の畠山啓さんに伺った。
本人の意思確認ができないため決断できない家族は多い

認知症の患者が、けがや病気で入院すると、退院後に要介護度が高くなっていることが少なくない。また、認知症が原因で入院する患者は、かなり進行した状態なので、退院後の生活について本人が判断することは難しい場合が多い。そのような場合、退院後に自宅に戻るのか、自宅では無理なので長期療養できる施設に入るのか、といったことを家族が決めなくてはならない。
しかし、東京都健康長寿医療センターで認知症患者とその家族の相談窓口を担当してきた畠山啓さんは、「退院後の選択肢を話しても、なかなかご家族で決められないケースが少なくありません」と話す。
なぜ決められないかというと、肝心の本人の意思が分からないからだ。
「自分の父母が、退院後に自宅で暮らしたいと思っているのか、家族の世話になりたくないから施設に入りたいと思っているのか、多くの人は今まで聞いたことがないので分からないのです。これは、終末期にもいえることです。病気や事故で看取りの段階に至ったときに、延命処置をするのかしないのか、看取りを自宅でしたいのか、病院でしたいのかなど、なかなか判断できないご家族は少なくありません」と畠山さんは話す。
認知症の初期段階で聞いておきたいことは?
いざというとき、悩まずに選択ができるようにするためには、軽度認知障害(MCI)から初期認知症の段階で、大切なことは本人が決めておくことが大事だ。では、どんなことを決めておけばいいのだろうか。
「将来、ご自身で判断ができなくなったときに、自宅で過ごしたいのか、介護可能な施設で過ごしたいのか。お看取りの段階では、救命措置をどこまで行ってほしいのか、また、食事が食べられなくなったら、自然にまかせるのか、それとも胃ろうを作って栄養を入れるのかなど、重い話ではありますが、いざというときに重要な問題です」と畠山さん。
とはいえ、親と改めて認知症の話や、将来の看取りの話をするのは、なかなかハードルが高い。畠山さんは、家族が親に聞く場合は、一度にすべての話を聞くのではなく、例えば、テレビ番組などでたまたま介護特集を一緒に見る機会があるときに、「お父さんは将来どうしたい?」と聞くようにすると、話しやすいという。
また、紙に書き残してもらうのも一案である。「最近は、エンディングノートなどもありますが、特に書くことが好きでなければ、下に示したような最低限必要なことをメモしてもらうだけでかまいません。その際、貯金通帳のパスワードや印鑑の場所なども書いてもらうと便利です。いざというとき、分からなくて困る方が非常に多いので」と畠山さんは話す。
◆軽度・初期の段階で聞いておきたいこと
・自身での判断ができなくなったとき、自宅で過ごしたいか、介護施設で過ごしたいか
・延命措置はどこまで行ってほしいか
・胃ろう等による栄養摂取を希望するかどうか
・貯金通帳のパスワードや印鑑の場所
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