知っておきたい初期認知症の親との接し方。イライラが減るコツは?
初期認知症で起こる問題とその解決法(2)
伊藤左知子=医療ジャーナリスト
認知症の初期では、まだまだ認知機能が保たれているのでできることも多い。しかし、すべてを以前と同じようにできるわけではない。それが介護する人にとっても、介護される人にとっても、ストレスの原因となる。だが、認知症患者にできることとできないことを理解して接するだけで、ストレスは大きく軽減するという。認知症の本人は具体的にどのような状態になっているのか。また、介護する側はどう対応すればいいのだろうか。前回「家族が認知症になったとき、やってはいけないNG行動」に引き続き、東京都健康長寿医療センター研究所 福祉と生活ケア研究チーム研究員の伊東美緒氏の話を基に解説する。
認知症本人に起きていることと、介護する側の対応のコツ
1. 情報の同時処理が難しく、後ろから声をかけられても気づきにくい→【対応策】本人の視界に入ってから声かけをする

介護する側とされる側がイライラしてしまうことの一つに、「声かけ」がある。
例えば、テレビを見ているお父さんに、娘が後ろから「お父さん!」と声をかけても、無反応。すると娘は、近くまで行って後ろから、さらに大きな声で「お父さん!」と声をかける。それでも反応がないと、今度は、耳元で大きな声で「お父さーん!」。あるいは、肩をパンパン叩いて「お父さん、呼んでるでしょう!」とやってしまうことも。
当のお父さんは、耳元で怒鳴られたり、肩を叩かれたりして、ようやく呼ばれていることに気づき、「なんだよ、おどかすなよ」などと言う。ホームドラマなどでも、よく見かける光景だが、ドラマなどでは、別のことを考えていて、気づかないという設定が多い。しかし、お父さんが初期の認知症の場合は事情が少し違う。
「認知機能が落ちてくると、複数の情報を同時に処理することが難しくなります。そのため、テレビに意識が集中しているお父さんは、娘の声に気づきにくいのです」と伊東氏は話す。
さらに、耳元で怒鳴られたり、肩を叩かれて、初めて呼ばれていることに気づいたお父さんは、とても驚く。お父さんにとっては、後ろから、わっと驚かされたのと同じようなことだから、当然である。これが1日に何回もあると、「いい加減にしろ!」となってしまう。声をかける方も同じだ。「何度も呼んでいるのに、無視しないでよ」となる。
「実は、介護の現場では、声かけのストレスで怒りっぽくなっている人が非常に多いのです」と伊東氏は実情を語る。
では、この「声かけ」のストレスを回避するためにはどうすればいいのか。伊東氏は、「相手の視界に入ってから声をかけることが大事です」と話す。例でいえば、お父さんとテレビの間に娘が回り込み、お父さんが娘の存在に気づいてから声をかけるようにすればいい。毎回、回り込むのが大変なら、横から手を出して、こっち、こっちと、手を振るようにしてもいいという。ただし、「その際、注意してほしいのは、相手が驚かないように、ゆっくり手を出すこと」と伊東氏は話す。
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