認知症と物忘れはどう違う?
体験の一部を忘れるか、体験そのものを忘れるかに違い
伊藤左知子=医療ジャーナリスト
「有名な俳優さんなのに名前がぱっと出てこない」「昨日の昼食のおかずが思い出せない」など、年を取ると増えてくる物忘れ。ふとしたときに、親が、あるいは自分が、「認知症になったのではないか?」と不安を感じる人も多いのではないだろうか。加齢による物忘れと認知症は、どこがどう違うのか。本連載では、症状、特徴、患者への対応法など、知っておきたい認知症の基礎知識についてわかりやすく解説する。
物忘れは体験の一部を忘れ、認知症は体験自体を忘れる

「相手の名前がとっさに出てこない」という経験は、高齢者のみならず、多くの人にあるのではないだろうか。このような物忘れが多少増えても、それは加齢によって起こる脳の衰えで、認知症ではない。だが、「いつも通っている場所の道が分からなくなった」「約束を頻繁に忘れるようになった」といったことが起こったら、それは認知症かもしれない。
認知症と加齢による物忘れを分かりやすく比較すると、体験の一部を忘れるのが加齢による物忘れで、体験そのものを忘れるのが認知症の特徴だ。例えば、財布のありかがわからないとしよう。物忘れの場合、「どこにしまったか忘れてしまった」と頭を抱えることになるが、認知症の場合、「財布がなくなった。誰かが盗んだ」となってしまう。
また、認知症になると新しいことを覚えるのが難しくなるが、加齢による物忘れの場合、学習能力は保持されている。さらに認知症は徐々に進行するが、加齢による物忘れは、急激な進行、悪化はしない。また、自分は認知症かもしれないと心配するような人は認知症の可能性は低いが、物忘れが進行しているのに、自覚がない人は認知症である可能性が高いのだという。
物忘れ | 認知症 |
体験の一部を忘れる | 体験そのものを忘れる |
学習能力は保持されている | 新しいことを覚えるのが難しい |
基本的に進行、悪化はしない | 徐々に進行する |
物忘れの自覚がある | 自覚がない |