カギは糖尿病予防と牛乳!久山町研究から見えてきた認知症予防策
糖尿病予防を怠ると、認知症患者が今後さらに増加する可能性も
伊藤左知子=医療ジャーナリスト
福岡県久山町の住民を対象に1961年から行われている大規模な疫学調査「久山町研究」。研究の中心メンバーとして知られる九州大学大学院医学研究院付属総合コホートセンター教授の二宮利治氏が、健康日本21推進フォーラム(※1)が開催した「高齢者の健康と栄養」セミナーで、久山町研究で明らかとなった認知症と食生活の関連について明かした。
糖尿病予防と治療が認知症リスクを下げる
久山町研究とは、福岡市に隣接した人口約8400人の久山町の住民を対象に1961年から行われている、脳卒中、高血圧症、糖尿病といった生活習慣病に関する大規模な疫学調査だ。町と住民の全面的な協力を得ることで、亡くなった方の約8割を剖検(解剖して調べること)し、正確な死因や隠れた疾病を調査していることが最大の特徴。調査開始以来、定期的な検診を行っており、これまでに追跡不可能となった人は1割に満たないという。
この久山町において65歳以上の住民を対象に認知症に関する追跡調査(※2)を行ったところ、1985年に6.7%だった認知症患者の割合は、2012年には17.9%に増加。65歳以上の約6人に1人が認知症になっていることが分かったという。このような場合、診断率の向上が増加の原因になることもあるが、久山町研究では診断率が影響しない形での調査が行われているためその可能性はないという。では、なぜ認知症患者の割合が増えたのだろうか。
ちなみに、認知症の種類の内訳を見ると、脳血管障害の後遺症として発症する血管性認知症は横ばいなのに対し、アルツハイマー型認知症は1998年から2012年にかけて急激に増えていることが分かったという。
そこで二宮氏らは、アルツハイマー型認知症の発症リスクは何かを探るべく、高血圧、肥満、高コレステロール血症、糖代謝異常などの代謝疾患のある人の割合の推移を調査した。その結果、高血圧は横ばいだったが、それ以外の肥満、高コレステロール血症、糖代謝異常は優位に上昇していることを突き止めた。特に男性の糖代謝異常は、アルツハイマー型認知症の増加傾向と同じように増加していることが分かった。
さらに、糖尿病でない人と糖尿病の人でどちらが認知症になりやすいかを検証したところ、糖尿病の人は糖尿病でない人に比べ2倍以上、アルツハイマー型認知症になりやすいことが分かった。血管性認知症についても発症リスクを高めることが分かった。
つまり、裏を返せば、糖尿病予防や治療を行うことで認知症になるリスクが下がる可能性があるということだ。
二宮氏は「糖尿病を40~50歳代の中年期に発症した人の方が、認知症になったときに脳の委縮が起きやすいことが分かっていますので、年を取ってから対策をするのではなく、中年期から生活習慣を変えるなどの対策を取ることが大切です」と話した。
なお、二宮氏は「認知症の予防対策で一番有効なのは運動と食事です」と話す。認知症の種類別に見ても、1週間のうち数時間でも運動を行っている人は、すべてのタイプの認知症で20%、アルツハイマー型では40%発症リスクが下がることが、久山町研究から分かっている。
そして、食事についても久山町研究から分かってきたことがある。それは…。