OECDが考える日本の認知症ケアの課題とは?
認知症に対する世界の取り組み(2)
伊藤左知子=医療ジャーナリスト
世界的に認知症患者は増加の一途をたどり、一国のGDP予算に匹敵するコストが毎年かかっている状況である(前回参照)。このままではいけないと世界各国が手を組み、対策に乗り出している。その詳細について、前回に引き続きOECD(経済協力開発機構)雇用労働社会政策局のマーク・ピアソン次長に聞いた。
なぜ認知症研究の連携が必要なのか

世界の認知症患者数は2050年には1億3200万人に達すると推定されている(「世界アルツハイマー報告書2015」国際アルツハイマー病協会、ADI)。認知症患者の増加、それに伴う経済的コストの増加は大きな問題となっている。
患者数の増加を食い止めるためには、予防法や治療法の開発を急がなければならないが、前回取り上げたように、なかなか研究開発は進んでいないのが現状である。これに対し、G8認知症サミット(「認知症に対する世界の取り組み(1)」参照)は、認知症の治療法あるいは予防法の開発のために、各国共同で資金を提供していくことを宣言した。
「認知症の分野では、基礎研究自体、あまり進んでいません。日本をはじめ、各国が基礎研究に資金を投じてきましたが、互いの連携がうまく行われていませんでした。そこで、それぞれ違う分野の研究開発に投資をして、知識を共有していけば、良い結果が得られるのではないかということで、取り組みが始まったところです」とOECD(経済協力開発機構)雇用労働社会政策局のマーク・ピアソン次長は話す。
今後、OECDやWHOなどが舵を取り、関係各国で基礎研究に関する情報を共有したり、遺伝子情報などを集めたデータベースを各国が構築して共有したり…といった形で、研究の連携を行っていくことになっている。
ピアソン次長は「遺伝子情報などを集めたデータベースが構築されれば、例えば、ある特性の遺伝子を持っている人に有効な薬が開発されたときに、その遺伝子を持つ人をアメリカから5人、カナダから3人、日本から10人というようにピックアップし、治験(*)の合意を得たうえで参加してもらうといった仕組みができます」と話す。こうして治験に参加する候補者のパイが広がることにより、認知症では難しかった治験も比較的スムーズに行うことが可能となる。
これらの対策により、認知症の発症を2年遅らせることができれば、2050年の認知症による経済的負担を2280万症例分減らすことができると試算されている(2013年G8認知症サミット)。
質の高い介護ケア実現のために日本がやるべきこと
もう一つの大きな課題が、認知症ケアの問題である。
「認知症ケアの改善のために、世界がしなければならないことは大きく分けて二つあります。一つは、世界各国でのケアの質を比較・測定するということです」とピアソン次長。
例えば、向精神薬が投与されている患者は何人いるのか、動かないように拘束されている人は何人いるのかなどケアの質を比較して、その質を上げるために何をすればいいのか、定義を決めていくという。
ピアソン次長は、「日本では、認知症患者を支援する新しい技術の開発は進んでいますが、質の良いケアの提供については改善の余地があります」と話す。ピアソン次長が考える改善すべき点とはどんなことなのか。