世界が考える認知症の課題とは?~OECDが認知症問題に取り組むワケ
認知症に対する世界の取り組み(1)
伊藤左知子=医療ジャーナリスト
現在、認知症患者は世界中に約4680万人(世界アルツハイマー報告書2015)。何もしなければ、20年後には2倍になると予測されている。そこで、「どうにかしなければ!」と世界各国が手を組んで取り組むことになった。世界は今、認知症に対して、何を課題と考え、どのように対策を行っていくつもりなのだろうか。OECD(経済協力開発機構)雇用労働社会政策局のマーク・ピアソン次長に聞いた。
認知症にかかる世界的コストはスイスのGDPに匹敵

この連載でもすでにお伝えした通り(「なぜ日本は認知症患者数が多いのか?」)、2013年12月、世界的規模の少子高齢化と認知症患者の増加を危惧して、先進7カ国(G7:米国・英国・ドイツ・フランス・イタリア・日本・カナダ)にロシアが加わったG8の保健大臣は、ロンドンでG8認知症サミットの会合を開催。認知症問題に対し、共に取り組んでいくことで合意した。
ここでまず問題に挙げられたのは、認知症人口の増加である。冒頭で紹介したように、2015年の時点で世界の認知症患者数は4500万人強と考えられているが、2013年にG8認知症サミットが行われた時点では3500万人強だった。つまり、3年の間に約1.3倍増えたことになる。
OECD(経済協力開発機構)雇用労働社会政策局のマーク・ピアソン次長は、「当初の予想に比べると、現時点での増加率は低い傾向にあります。この傾向が続くことを望んでいますが、今後、急激に増加していく可能性もあります」と話す。
認知症増加の一番の理由は高齢者の増加だが、診断率の向上も隠れた認知症患者を明るみにし、認知症増加の一因になるとも言われている。つまり、現時点では認知症と診断されていない潜在的な認知症患者が、かなりいると考えられているのだ。「私たちの大まかな推測ではありますが、現在、認知症と診断されている患者さんは、認知症患者全体の半分程度ではないかと思われます」(ピアソン次長)。
認知症に関する2つ目の大きな問題は、認知症患者の増加に伴う経済的なコスト増である。OECDが認知症対策に乗り出した理由もここにある。認知症患者を取り巻くコストの増加は、直接的な医療費のほかに、介護のための社会的コスト、介護をするために家族が仕事を辞めなければなくなる社会的損失など、多岐にわたる。
「私たちの見積もりでは、認知症にかかるコストは年間約6500億ドル(1ドル110円として約71兆円)を上回ると推測されています。この金額はスイスのGDPにほぼ匹敵する額です。つまり、毎年、スイス1国分を支える金額が認知症にかかっているということです」(ピアソン次長)
認知症の研究がなかなか進展しない深い事情
認知症の増加を抑制しなければ、経済的なコストはこの先、どんどん膨れ上がるというわけである。では、認知症患者数の増加を抑えるためには、どうすればいいのか。
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