認知症大国・日本で始まりつつある研究とは
長寿研・鳥羽理事長に聞く!認知症の原因と予防
超高齢化社会に向けて増加が予想される認知症に対して、国はどのような対策を講じているのだろうか。認知症に対する主な取り組みについて、前回に引き続き、国立長寿医療研究センター理事長・総長の鳥羽研二さんに話を聞いた。
認知症対策に世界が共同で動き出した

日本の認知症患者数は2012年時点で約462万人。2025年には700万人を超えるといわれている(厚生労働省推計)。65歳以上の高齢者のうち、5人に1人が認知症になる計算だ。
認知症患者の増加は、日本だけでなく世界中で社会問題、政治問題となっている(※より詳しくは、「なぜ日本は認知症患者数が多いのか?」をご覧ください)。2013年12月に開催された「G8認知症サミット」で英国は、認知症予防や治療のイノベーションを促進し、認知症研究の資金源獲得の取り組みを行う「認知症イノベーション特使」と「世界認知症諮問委員会」の設立を表明。後者の委員の一人として日本医療政策機構代表理事の黒川清氏が任命された。同時に、日本は英国などと、2025年までに治療法を見つけ出すための研究費を大幅に増額するなどの共同声明を発表した。「G8認知症サミット」の声明を受けて、日本は、その翌年の2014年11月に、後継イベント「認知症サミット~新しいケアと予防のモデル~」を開催。安倍晋三首相は日本の認知症施策を加速するための新戦略を策定し、政府一丸となって取り組むことを表明。認知症の病態解明を進め、予防や治療の研究開発につなげるため、住民を対象とする追跡研究を全国で展開する予定であることを述べた。
日本が行う大規模な追跡研究とは?
その一環として、鳥羽さんら国立長寿医療研究センターは、フィンランドで行われた「フィンガー研究」(*1)に該当する、大規模な認知症研究に取り組む予定だ。
フィンガー研究とは、認知機能が同じ年齢の平均レベルよりもやや劣るもののまだ軽度認知障害(MCI)にはなっていない人たちを対象にした追跡研究。その人たちを、認知症予防に効果があるとされる様々なこと(下図を参照)をすべて組み合わせて行うグループ(介入群)と、一般的な健康アドバイスのみ受けるグループ(対照群)に分けて2年間追跡したところ、神経心理学的検査で測定した認知機能を示すスコアに明らかに差が生じ、介入群のほうが高かった、というものだ(※MCIについて詳しくは、「認知症の一歩手前、『軽度認知障害(MCI)』とは?」をご覧ください)。
- 運動(早歩きなどの有酸素運動と筋肉トレーニング)
- 食事(塩分、脂肪を控え、魚、野菜、果物をたくさん食べる)
- 認知トレーニング(神経衰弱のような頭を使うゲーム)
- 血管リスクモニタリング(血圧の管理や生活習慣病対策)
「フィンガー研究は認知症の前段階といわれる軽度認知障害(MCI)の一歩手前の人を対象に行われました。また、遺伝的背景がどう関与していたかや、効果が見られた人にどんな特徴があったかといった細かいことまではここでは調べられていません。そこで、すでにMCIになった人を対象に細かいことまで調べ、こういう危険因子を持った人はこういう対策をとるべきといった、個々人の特性に合わせた認知症の予防&治療プランの確立につなげていこうというのが私たちの試みです」(鳥羽さん)。
*1 Ngandu T,et al.Lancet. 2015 Jun 6;385(9984):2255-63
この記事の概要
