認知症と間違われやすい「高齢発症てんかん」ってどんな症状?
本人・家族がてんかん発作を見逃さないようにすることが大切
伊藤左知子=ライター
こうした、高齢者に多い、けいれんなどを伴わないてんかん発作を「意識減損焦点発作」(旧名は複雑部分発作)と呼ぶ。意識減損焦点発作の多くは、側頭葉に原因がある「側頭葉てんかん」である。
「高齢発症てんかんの発作では、ボーッとして何をしていたか覚えていないときもあるため、認知症と間違われることも少なくありません」と話すのは、国際医療福祉大学医学部神経内科教授で、福岡山王病院脳神経機能センター神経内科の赤松直樹さん。
例えば、60代半ばのある女性患者の場合。職場で言われたことを忘れてしまうので、「自分は認知症になったのではないか」と思い退職して故郷に戻り、姉と同居。姉と一緒に物忘れ外来を受診した。姉によれば、週2~6回、ボーッとして意識がはっきりしない状態が1~2分続くことがあったといい、その際、手や口をもぞもぞ動かす症状があるということだった。また、本人によれば、発作が起こる前に、以前見たことのあるような風景が頭の中に10秒間くらい浮かんでくるということだった。
赤松さんは、「この患者さんは入院して脳波を検査した結果、てんかん特有の脳波が出たため、てんかんと診断しました」と話す。
てんかんの検査は、発作時の脳波を調べ、てんかん特有の脳波が出れば、てんかんと診断する。ただし、てんかん発作が起こっているときでないと異常な脳波を捉えられないため、診断は難しいという。
「認知症と診断され、長年、認知症の治療薬を処方されながらも異常行動が改善されなかった人が、てんかんの検査をしたところそのように診断され、てんかんの治療によって症状が改善した、という事例はいくつもあります」と赤松さんは話す。
また、高齢発症てんかんはてんかん以外の病気を合併している場合も多く、その場合、さらにてんかんと診断するのが難しくなると赤松さんは話す。
特に認知症と合併している場合、てんかんの症状が認知症の症状に似ているため、識別は困難となる。
高齢発症てんかんの治療
高齢発症てんかんは見つけるのが難しい病気ではあるが、てんかんが発見されれば、程度によっては治療により病気をコントロールすることが可能となる。
てんかんの治療は内科的治療と外科的治療に分けられる。内科的治療には、薬物療法、糖類を極力抑え、脂肪を増やした食事を取るケトン食療法、副腎皮質刺激ホルモンの注射を行うACTH療法などがある。薬物療法を行っても発作をコントロールできない場合は、発作を起こす部位が分かっていれば、その部位を切除する手術、あるいは発作がほかの脳部位に広がるのを防ぐ手術も考慮される。
高齢発症てんかんの治療では、主に薬物療法が行われ、診断により、早期に見つけることができれば、症状が改善され、日常生活への支障を防ぐことも可能だ。そのためには、本人はもちろん、家族など周囲の人も高齢発症てんかんの症状を知り、てんかん発作を見逃さないようにすることが大切である。
高齢発症てんかんは診断が難しい病気なので、ご自身、ご家族が高齢発症てんかんかもしれないと思ったときは、かかりつけ医に相談するか、てんかん診療ネットワークのホームページに日本てんかん学会専門医名簿があるので、近くの専門医を受診・相談するとよいだろう。
(図版作成 増田真一)
国際医療福祉大学医学部神経内科教授、福岡山王病院脳神経機能センター神経内科勤務
