日経グッデイ

私の「カラダ資本論」

心のコントロールにおける呼吸法の驚くべき効果【ネクスト井上氏】

第3回 入浴時に「調身・調息・調心」を実践

 井上高志=株式会社ネクスト社長

 仕事においては、やはりカラダが資本。多忙な中でも最高のパフォーマンスを発揮し続けるには、日ごろからの健康管理が欠かせない。一流人が実践する健康マネジメント術を紹介するコラム、今回は不動産情報サービス業のネクスト・井上高志社長の第3回目。2年ほど前から始めた合気道がビジネスの場でも役に立っていると話す井上社長に、心をしずめるのに効果的な呼吸法について伺った。

背筋を伸ばして、息を細く長~く吸って吐く。呼吸法を行うことで、気分がすっきりします
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 私は「調身・調息・調心」を実践しています。これは姿勢を正して呼吸法を行うことで、心身を調える合気道の鍛錬法です。私は主に入浴時に、湯船の中で坐禅を組んで行っていますが、自宅のリビングや職場のデスクで、イスに座りながらでもできます。

 イスに座って行う場合は、腰を立てて、両肩を上に引き上げてからスッと落とすと、自然体の姿勢になります。私は普段は姿勢が悪くて、仕事中も背もたれに寄りかかったり、猫背になったりして疲れてしまうことがよくあるのですが、この姿勢を取るとラクに座っていられます。

静かで深い呼吸を繰り返す

 まずは自然体の姿勢で身を調えて、次に呼吸を調えます。目を薄く開けた半眼の状態で1.5メートルくらい先の床を見つめながら、10~15秒程度かけて、鼻から細く息を吸います。その後、今度は30~40秒程度かけて、鼻から細く息を吐いていきます。イメージとしては、羽毛を鼻先につけても微動だにしないくらいの呼吸です。これを20~30回繰り返し行います。

 呼吸を始めて2~3回くらいまでは、心が定まらないままですが、呼吸に集中していると、5~10回になる頃には、だんだんとしずまってきます。そして、最後には心が調い、すっきりとした気分になります。

 心が調っていくと、自分の感度が研ぎ澄まされていくのが分かります。心臓の鼓動の音がはっきりと聞こえたり、指先の血液の流れを感じたり。この心がしずまった状態なら、目をつむっていても、相手の気を感じとることができます。例えば、丸めた新聞紙で頭をコツンと叩いてもらおうとすると、相手が動く瞬間を感知して、避けることができるのです。これは心をしずめれば誰にでもできることなので、「調身・調息・調心」をしたあとにぜひ試してみてださい。

気を通わせれば、緊張することなく話せる

 私は合気道で気の鍛錬を始めてから、心のコントロールができるようになってきました。かつては会議などで意見が対立すると、イラッとしているのが声や態度に出てしまうことがあったのですが、今は心をしずめることで、落ち着いて穏やかに対応できるようになってきたような気がします。役員から「以前とは変わってきた」と言われることもあります。

 また、私は講演をする機会が多いのですが、かなりの場数を踏んでいるので、今では数千人を前にしても、緊張することなく話せます。合気道を始めてからは、意識的に「気を出す」ことで、その場の空気をつかめるようにもなってきました

人前で話すときは目についた人に「黒縁のメガネをかけているな」などと意識を向けることで、気をつなぐ。これだけで落ち着いて話せるはず。
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 「気を出す」とは、「気と気をつなぐ」「気を通わせる」といった意味です。水は流れがあると清らかですが、滞ると腐ります。それと同じように、自分の気と人の気を滞らせることなく、うまくつないで通い合わせることができれば、その場の空気を把握できるようになります。

人前で上がることなく話すコツ

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人前で話すときは、聞き手と気を通わせると上がりません。

 プレゼンや会議など人前で話すときに緊張してしまう人は、気が上がった状態になっています。そうなると、聞いている人と目を合わせないようにしてしまう人もいます。でも、それは気が閉じた状態なので、余計に上がってうまく話せなくなります。緊張して上がらないようにするためには、まず呼吸を調える。それだけでも落ち着いてきますが、さらに気を出すようにしてみるといいでしょう。

 具体的には、その場にいる人全員でなくていいので、目についた人を見て、自分の気を向けるようにします。例えば、「あの人は緑色のネクタイをしているな」「向こうの人は黒縁のメガネをかけているな」というように意識していくと、気をつないでいくことができます。

 気を出してつなげるようになってくると、自分が落ち着いて話せるだけでなく、話している相手の心が読めるようにもなります。話を聞いているだけでは言葉通りに受け取れることでも、相手の全体をじっと見て気を通わせていると、「言葉ではこう話しているけど、心では本当はこう思っているな」ということが分かってくるのです。ですから、人と話をするときは、なるべく気を通わせたほうがいい。会議やプレゼン、面談や採用面接などでも生かせますよ。

(まとめ:田村知子=フリーランスエディター、写真:小野さやか)

■井上社長のカラダ資本論
第1回 1日20時間の激務でも体を壊さなかった理由
第2回 ストレスによる心の振れ幅を最小限にする方法

井上高志(いのうえ・たかし)氏
ネクスト社長
井上高志(いのうえ・たかし)氏 1968年生まれ。91年青山学院大学経済学部卒業後、リクルートコスモス(現コスモスイニシア)に入社。リクルート(現リクルートホールディングス)への転籍を経て、95年に退社し、ネクストホームを創業。97年ネクストを設立し、不動産・住宅情報サイト「HOME’S」のサービスを開始。2006年東証マザーズ上場。2010年東証一部に市場変更。2011年からはアジアにも進出。現在は世界46カ国にサービスを展開している(2016年9月時点)。