日経グッデイ

私の「カラダ資本論」

ストレスによる心の振れ幅を最小限にする方法【ネクスト井上氏】

第2回 マインドフルネスに通じる合気道で心を鍛錬

 井上高志=株式会社ネクスト社長

 仕事においては、やはりカラダが資本。多忙な中でも最高のパフォーマンスを発揮し続けるには、日ごろからの健康管理が欠かせない。一流人が実践する健康マネジメント術を紹介するコラム、今回は不動産情報サービス業のネクスト・井上高志社長の第2回目。怒りや緊張を感じると腹が立ったり心が上ずったりしがちだが、そういったストレスに動じず心を常に安定に保つために井上社長が行っていることを伺った。

合気道の極意は相手を倒すことではなく、導き動かすこと。マインドフルネスにも通じるような心のコントロール術を学んでいます
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 私は「心身は表裏一体」と考えていますが、2年ほど前から始めた合気道でも、「心身一如(しんしんいちにょ)」という教えがあります。これは簡単にいうと、心と身体は一体のもので、心が調い、落ちついた明鏡止水の状態にあるときこそ、最高の能力やパフォーマンスを発揮できるというものです。

 合気道と聞くと、相手に技をかけたり、はね飛ばしたりするイメージを持たれる方もいるかもしれません。しかし、合気道の極意は相手を倒すことではなく、心と体を一体にして、相手を導き動かすことにあります。そのためには、心をしずめることが最も重要です。

 私はマインドフルネスにも通じるような、心をコントロールする術を習得するために合気道を学んでいます。私が通う「心身統一合氣道会」を創設された宗主の藤平光一先生は、プロ野球選手の王貞治氏や広岡達朗氏などを指導されたことで知られています。現在の継承者、藤平信一先生のもとでも、多くの経営者やアスリートなどが指導を受けています。

ストレスによる心の振れ幅を最小限に

 私が合気道を学び始めたのは、登山家の友人、小西浩文さんのご紹介がきっかけでした。小西さんは標高8000メートルを超える山で、無酸素登頂にチャレンジされている方です。

 小西さんが挑む8000m峰では、酸素や気圧が平地の3分の1になり、気温もマイナス15~45度になるそうです。そうした厳しい環境では、脳や心臓などに負担がかかり、冷静な判断ができなくなってしまう。そうなると、何かあったときに助かる手立てがあったとしても、恐怖心や絶望感に支配されて、命を落とす登山家もいるのだそうです。そうした過酷な世界では心の鍛錬、コントロールが重要になると聞き、関心を持ちました。

 現代社会で生きていると、仕事でも日常生活でも、さまざまなストレスにさらされます。そのときにも心を鍛えていると、ストレスによって精神状態が揺らいだとしても、その振れ幅をすぐにもとの平静な状態に戻せるようになるのです。

意識が上がった状態ではパフォーマンスは発揮できない

「腹が立つ」「頭にくる」は気が上のほうに来てしまっている状態
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 心身統一合氣道会では、「臍下(せいか)の一点に心をしずめ統一する」といった原則を学んでいます。下腹部を示す「丹田」という言葉を聞いたことのある人も多いと思いますが、「臍下の一点」はそれよりも下の方。へその下10cmほどの位置で、立った状態で下腹に力を入れてみて、力が入らない場所を指します。

 「腹が立つ」「頭にくる」などといいますが、これは本来は臍下の一点に定まっているべき意識が、怒りで腹や頭まで上がってしまっている状態だそうです。この自制が効かない状態では、ベストパフォーマンスを発揮することはできません。こうしたことを、実際の姿勢や動き、技などを通じて、自分自身で体感しながら習得していきます。

 臍下の一点に心をしずめられるようになってくると、怒ったり緊張したりしたときも心が上ずってしまうことはありません。心が安定するだけでなく、その状態のときは人から押されても、グラッと動くことはありません。

 鍛錬を重ねていくと、例えば、名刺1枚で割り箸を切れるようにもなります。私はこれまで割り箸4本を切ったことがありますが、登山家の小西さんが6本切るのを見たことがあります。それも、私は名刺を上から振りかぶって降ろすものの、小西さんは名刺を割り箸に当てた状態から引くだけで、スパッと切ってしまいます。ここまでできるようになるには修行とコツが必要ですが、心のコントロールは誰にでもできることです。

 私は小西さんと一緒に、修験道の山で滝行をしたり、断食坐禅をしたりしたこともありますが、普段はなかなかそこまでできないので、都合のつくときに道場での稽古に参加したり、自宅で坐禅や呼吸法をしたりしています。呼吸法はどこでも簡単にできて、心をしずめることができますし、ビジネスの場にも生せるのでお薦めです。次回(2016年10月3日公開)、具体的な方法をご紹介したいと思います。

(まとめ:田村知子=フリーランスエディター、写真:小野さやか)

■井上社長のカラダ資本論
第1回 1日20時間の激務でも体を壊さなかった理由

井上高志(いのうえ・たかし)氏
ネクスト社長
井上高志(いのうえ・たかし)氏 1968年生まれ。91年青山学院大学経済学部卒業後、リクルートコスモス(現コスモスイニシア)に入社。リクルート(現リクルートホールディングス)への転籍を経て、95年に退社し、ネクストホームを創業。97年ネクストを設立し、不動産・住宅情報サイト「HOME’S」のサービスを開始。2006年東証マザーズ上場。2010年東証一部に市場変更。2011年からはアジアにも進出。現在は世界46カ国にサービスを展開している(2016年9月時点)。