日経グッデイ

現役エージシューターの「山あり、谷あり、ゴルフあり!」

ゴルフは私にとって“病院”みたいなもの

第4回…「2020年の東京オリンピックに選手で出たい」【矢嶋正一さん】

 高橋健二=ノンフィクションライター

ゴルフを嗜む者であれば、生涯に一度は経験したいことが3つあるとされる。「ホールインワン」「アルバトロス」、そして「エージシュート」だ。偶然などによってもたらされることが多いホールインワンなどとは違い、自分の年齢よりも少ない数字のスコアで回るエージシュートは、真の腕前だとされる勲章の1つ。そして何より、70代、80代、90代…でゴルフができる「元気の証」でもある。ゴルフを始めた経緯も、その人生も様々。現役エージシューターから学ぶ「体のこと」「ゴルフの極意」をお届けする。川越市ゴルフ協会の会長を務める矢嶋正一さん(86歳)の第3回は「ゴルフ雑誌とテレビが私のスイングの先生」。

健康法も食事も運動も、特別なことは何もしていません

 86歳でエージシュートを374回達成して、現在も記録更新中の矢嶋正一さんは、サラリーマン時代、早くリタイアして定年後はゴルフ三昧の生活を送るのが夢だったという。それが、文字通り「正夢」になり、今は年間平均で70ラウンドを回り、そのほとんどでエージシュートを達成する日々を送っている。エージシュートを達成するには、単にゴルフが上手いだけでなく、健康でゴルフのできる体力をキープし続けることが大事になるのだが、矢嶋さんはどうやって健康と体調を維持しているのだろうか?

 「特別なことは何もしていません。ごく普通に生活しています」(矢嶋さん)

 そう言う矢嶋さんだが、その1日は、朝5時半の起床からスタートする。

 「朝は5時半に目が覚めます。それからテレビを見たりしながら時間をつぶし、6時半に朝食をとる。朝食はバターをつけたトーストとリンゴ半分、牛乳をコップ1杯。それにイチゴやパイナップル、ぶどうなどの果物を食べます。全部、自分で支度します」(矢嶋さん)

 実は、矢嶋さんは昨年、奥さまを亡くしている。朝食をパン食にしているのは、そのほうが食事の支度も後かたづけも簡単だという理由からだ。

 朝食が終わると、ゴルフに行く日はそのままコースに出かけ、昼食もゴルフ場のレストランでとる。

「好き嫌いはない」という矢嶋さん。ゴルフ場での昼食も完食だった
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初対面の人と回るといいスコアになるんです

 「前日の天気予報で、明日は晴れると分かると、すぐにゴルフ場に予約の電話を入れて、初対面の組に入れてもらうこともある。そんなときは、緊張していいラウンドになるんです。1度、初対面の人と回ったとき、その日は調子が悪くてけっこう叩いたら、昼食のときに『失礼ですが、ハンデは10くらいですか?』と言われました。このままの調子で回って、あとでハンデキャップボードを見て、東松山のハンデ1はたいしたことないなとか、あれでハンデ1なら、東松山のハンデはいい加減だなと思われたら仲間に申し訳ないと思って、後半は真剣にプレーしてなんとか面目を保ちました。そういう意味で初対面の人と回るのは緊張していいゴルフになることが多いんです」(矢嶋さん)

ゴルフは私にとって、体の痛いところを治す病院です

 一方、ゴルフのない日は、朝食後に洗濯や庭掃除をする。この庭掃除がいい運動になるのだという。

 「屋敷が600坪あるので、草むしりや庭掃除が私の運動になっています。桜やモミジなどの落葉樹が植わっているので、秋の落ち葉のシーズンには、竹ぼうきで落ち葉を掃き集めるだけでもけっこういい運動になります。ときには竹ぼうきをもって素振りの練習もしますよ(笑)」(矢嶋さん)

 定期的にジムに通ったり、ストレッチや筋トレをするといった運動は一切しない。野菜づくりも運動になっている

 「庭の一画には家庭菜園があり、我が家で食べる小松菜、チンゲンサイ、ホウレンソウ、大根、ニンジン、ネギなどの葉物や根菜類はほとんど作っているから、その手入れにも時間をとられます。柿がなると、採ってキャディさんたちに持って行ってあげたりして、なんやかやで、けっこう忙しいんです(笑)」(矢嶋さん)

 庭の掃除や菜園の手入れが終わったら、天気がよければ庭の練習場で8番アイアンからウッドまでを150球とサンドウエッジを150球の合計300球、ボールを打って練習する。

 「体が痛いときもクラブを振り始めると痛みが取れる。腰が重くて前かがみになっているときなども、スイングをするとシャキッとなる。ゴルフは私にとって、病院みたいなものです(笑)」(矢嶋さん)

 練習で気を付けるのは、ボールをよく見ることだとか。

 「私の場合、ミスショットの原因はヘッドアップがほとんど。だから練習のときからボールをよく見て、打ち終わったあともボールのあったところから目を離さないようにしています。もともとフェード打ちだったので、とくに顔を上げないように気を付けているのです」(矢嶋さん)

 コースに出ない日の昼食は、同じ敷地内にある養女の家で、孫と同じ弁当を作ってもらって食べる。夕食は午後6時半に同じく養女家族と一緒に食べる。

 「好き嫌いはありません。なんでも食べますが、あえて言えば魚は嫌いかな。生臭いから。でも刺身や寿司は食べます。ヒカリモノ以外はね。どちらかといえば肉はよく食べるかな。孫たちは肉が多いので、私もそれに合わせて肉食が多くなっています。野菜は家庭菜園から引っこ抜いてきて茹でて食べています。無農薬だから生でも食べられるんです」(矢嶋さん)

 酒は飲まない。

 「お酒は、飲むとすぐ赤くなっちゃうんです。銀行マン時代に接待で宴席に出るときはおしぼりが必需品でした。おしぼりを持ってお酌に回り、返盃を受けると、いったん口に含んで、隠れておしぼりに吐き出していた。今は飲み方がスマートになり、飲酒を強要されなくなったので宴席も楽です」

 好物はおまんじゅうや大福だ。

 「妻が亡くなってから10時と3時のおやつを食べなくなったので、体重が5キロ落ちました。昔のズボンが楽に履けるようになりました(笑)」(矢嶋さん)

 現在の体格は、身長160センチで、体重が70キロ。体調は極めて良好で、どこも悪いところはないという。

ラウンド中は競歩の選手並みに速足で歩く

 こうしてみると、特別な健康法というものは何もない。

 「そうです。健康法はとくにありません。強いていえば無理しないことが健康法です。ふだんは起きたいときに起きて、寝たいときに寝る。食べたいときに、食べたいものを食べる。ストレッチや柔軟体操も、コレといったものはしない。ただ、試合などがあると、その試合当日のスタート時間に合わせて体調を整えるようにしています。8時スタートなら、試合の3~4日前から8時スタートのスケジュールに合わせて起きるんです。これが心身の緊張感を生んで、体調維持にいい効果をもたらしているような気がします」(矢嶋さん)

 文字通りの「常在戦場」だ。

 矢嶋さんと一緒にラウンドして気付いたことが1つある。歩き方がものすごく速いことだ。スタスタスタと、まるで競歩選手のような速足で歩く。歩くときの姿勢もよく背すじがスッと伸びている。人間の運動の基本は「歩き」にあるというが、歩き方がきちんとしていれば、格別、運動はしなくてもいいのかもしれない。

 「旧制中学時代は学校まで片道4キロを徒歩で通学しましてね、軍事教練があると、どんなに寒くてもポケットに手を入れてはいけなかったし、上級生に出会うと必ず敬礼をさせられ、歩くのも常に駆け足だった。だから、今の若い人たちみたいにダラダラと歩けない。86歳になっても歩くのが速いといわれるのは、若い頃の生活習慣がそうだったからでしょうね」(矢嶋さん)

2020年の東京オリンピックまで生きて、選手で出たい

 それにしても、今やゴルフがすべて、という矢嶋さん。ここまで入れ込んだのは、ゴルフのどこに魅了されたからだろうか。

 「やはり自分の思っているとおりのスコアが出るかどうか。そこに向かって挑戦をするのが一番面白いですね。思っているスコア? それは常に70台です」

 ゴルフ場はプレーヤーの思い通りにならないように設計されている。そのことが分かっているからこそ、思い通りになったときの喜びが大きいということだろう。

初対面の人と回ると、緊張していいスコアが出るんです
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 最後に今後の目標を聞いてみた。

 「東京オリンピックまで生きたいですね。霞が関CCは、1929年のオープンで、私と同じ年なんです。だから2020年の東京オリンピックまで生きて、できれば選手として競技に参加したいなあ(笑)」

 どうです、この目標の高さ。衰えを見せないチャレンジングスピリット!

 東京オリンピックの選手選考を担当している委員の皆さん、「長寿国ニッポン」の象徴として、矢嶋さんをぜひゴルフ競技の1番ティーに立たせていただくことはできないでしょうか。

<現役エージシューターの「山あり、谷あり、ゴルフあり!」は今回で終了いたします。長い間、ご愛読ありがとうございました>