日経グッデイ

現役エージシューターの「山あり、谷あり、ゴルフあり!」

ゴルフ雑誌とテレビが私のスイングの先生

第3回…抜群の安定感を支える「豊富な練習量」【矢嶋正一さん】

 高橋健二=ノンフィクションライター

ゴルフを嗜む者であれば、生涯に一度は経験したいことが3つあるとされる。「ホールインワン」「アルバトロス」、そして「エージシュート」だ。偶然などによってもたらされることが多いホールインワンなどとは違い、自分の年齢よりも少ない数字のスコアで回るエージシュートは、真の腕前だとされる勲章の1つ。そして何より、70代、80代、90代…でゴルフができる「元気の証」でもある。ゴルフを始めた経緯も、その人生も様々。現役エージシューターから学ぶ「体のこと」「ゴルフの極意」をお届けする。川越市ゴルフ協会の会長を務める矢嶋正一さん(86歳)の第2回は「全部自己流!? 学校の砂場でバンカーショットの練習も」、第4回は「ゴルフは私にとって“病院”みたいなもの」で12月18日公開予定。

年間ラウンド数70回で、平均ストローク80.7

 これまでの連載に登場したエージシューターで、達成回数1300回の植杉乾蔵さんや、780回の赤﨑俊美さんは、年間平均150ラウンド以上、プレーしている。だから練習場にはほとんど行かない。植杉さんいわく「コースに出るのが練習です」というわけだ。

 対して、矢嶋正一さん(86歳)は、年間のラウンド数が平均して70回前後と、先の2人の半分程度だ。しかし、エージシュート回数はすでに374回を数え、昨年(85歳のとき)は70ラウンド中、53回がエージシュートで、そのときの平均ストロークも80.7と安定感は抜群だ。

 この抜群の安定感を支えているのが豊富な練習量であることは言うまでもない。

 「練習はほぼ毎日します。庭に網を張ってカーテンを吊ったようなミニ練習場を作っていて、コースに行かない日は8番アイアンからドライバーまで150球、それが終わるとウエッジでアプローチの練習をやはり150球打っています」(矢嶋さん)

女子プロのスイングを参考にしています

 スイングは前回も紹介したが、すべて自己流で、プロに習ったことはない。あえていえば、ゴルフ雑誌のスイング特集が矢嶋さんの先生だという。

 「ゴルフ雑誌とテレビは昔からよく見ましたね。とくにゴルフ雑誌は定期的に購読していて、スイング特集で打ち方のヒントがあると、すぐに庭先の練習場に下りて実際に自分で打ってみてチェックする。またテレビのレッスン番組でスイングのリズムやインパクトのタイミングを見てひらめくものがあると、やはり練習場で打ってみて確認する。ゴルフ雑誌とテレビが私のスイングの先生で、それは今もやっています」(矢嶋さん)

 テレビでよく見るのはゴルフ専門チャンネル「ゴルフネットワーク」(有料放送)で、とくに女子プロのステップアップツアー(女子プロの2軍戦)中継と『とことん1番ホール生中継』という番組がお気に入りだとか。

どこにも力みの感じられないバランスのよいフィニッシュで立つ矢嶋さん
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 「男子プロのスイングは、パワーもヘッドスピードも違いすぎて参考にならない。女子プロのスイングが一番勉強になります。ステップアップツアーは、プロでもこんなミスをするの、というようなミスが見られるし、ミスをした後のリカバリーがすごく参考になる。また『とことん1番ホール生中継』はスタート直後の緊張した場面でプロはどんな打ち方をするか、タイミングをキープするためにどんな工夫をしているかといったことが、メンタルコントロールも含めて参考になります」(矢嶋さん)

 好きな女子プロはイ・ボミ(2015年の賞金女王)だそうだ。

 「彼女はスイングリズムが素晴らしい。スイング中の無駄な体重移動がまったくないし、頭もアドレスのまま残っている。それでヘッドスピード40~41m/sなのに250ヤード飛ばしているでしょう。あのスイングを見習いたいんです」(矢嶋さん)

エージシューターの3K=向上心、好奇心、健康

 エージシューターに共通するキーワードは「向上心」「好奇心」「健康」の3Kであることは、以前にもこの連載で紹介したが、矢嶋さんも他のエージシューターに負けず劣らす研究熱心で、かつ飽くなき向上心の持ち主といえるだろう。それが86歳になっても衰えない矢嶋さんのゴルフ熱を支えている。

 それにしても年間平均70ラウンドというと、週に2ラウンド程度の計算になるから、エージシュートの常連ゴルファーとしては、かなり少ない方である。よほどメンタル的にタフなのだろうか?

 「メンタル的に強いとは思っていません。けれど例えば、大会に200名が出場していたとしても、『優勝するのは俺だ』といつも思っていますね(笑)。よく一緒に回る人に『勝つ方法を教えてくれ』と言われるんですけど、それがコツなんじゃないでしょうか。あるとき、ハーフが終わったところで相手が3つバーディを取ってリードしていた。その人は前半絶好調で、普通の人なら『今日は負けた』と思うでしょう。私は違うんです。アマチュアがバーディを取るのは1ラウンドでせいぜい2~3個だから、後半はもう相手にバーディは来ないだろうと予測した。来るとすれば私のほうだ、と思っていたら、本当にその通りになって逆転したことがありましたよ」(矢嶋さん)

 このように、典型的なポジティブシンキングが矢嶋さんの真骨頂であり、日本グランドシニア選手権を含む数々のタイトルを手中に収めてきた要因でもあろう。

 「自分が悪いときは、人も悪いと思うようにしています。だって自分だけが悪いと思ったら、惨めになって落ち込み、入るパットも入らなくなっちゃうからね」(矢嶋さん)

スコアメイクはグリーン周りから逆算して考える

 こんな話もしてくれた。

 「例えば、自分がピンそばにつけて勝ったと思っていたら、自分より遠い相手が先に入れて、結局、同スコアになったときは負けたような気になるでしょう。そんな気持ちを払拭できるか否かが、次のショットに影響する。勝負のあやってそんなものじゃないですかね」(矢嶋さん)

 矢嶋さんがそうしたポジティブな思考を持っているのも、豊富な練習の裏付けがあればこそだろう。実は86歳になった今も、ラウンドの日はスタート時間の少なくとも1時間前にコースに着いて、入念な練習をしてからスタートするのが習慣になっている。

 「甲子園の高校野球の監督は、試合開始の3時間前に生徒を起こすそうです。つまり、それくらい時間をかけないと体も頭も目が覚めないんだと。その新聞記事を読んで以来、コースに出る日は3時間前に起きて、少なくとも1時間前にクラブハウスについて、ゆっくり練習をしてからティーグラウンドに立つようにしているんです。とくに入念に練習するのはショートゲーム。長いクラブは練習しません。長いクラブを練習しても、2オンはないのだから意味がない(笑)。グリーン周りをしっかり練習しておけばOKです」(矢嶋さん)

バーディチャンスにつけて真剣な眼差しでラインをよむ矢嶋さん
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 長いクラブは練習しないというのは、矢嶋さんのスコアメイク術自体が、グリーン周りから発想しているからにほかならない。

 「『ゴルフ逆転の発想法』というのを知っていますか? パターが上手ければアプローチは無理にカップを狙わなくていいと思うから楽に寄せられる。寄せが上手ければ無理にグリーンに突っ込んでいかなくてもいいと思うから2打目が楽に打てる。2打目をグリーン周りに運んでおけばパーは取れると思えば、ドライバーは無理に飛ばさなくていいし、飛ばそうとしなければ楽にフェアウエイをキープできる。つまりゴルフはグリーン周りから考えると、ティーショットも2打目も寄せも無理しないで楽にラウンドできることをいったものです」(矢嶋さん)

小技が上手くなれば、大技は黙っていても上手くなる

 どうだろうか。スタート前の練習でドライバーを一生懸命練習し、1番ホールのティーショットからエンジン全開で振り回してミスをしている人がいたら、矢嶋さんの「ゴルフ逆転の発想法」を1度実践してみるとよいかもしれない。

 「でもね、小技が上手くなれば、大技は黙っていても上手くなると思うようになったのは、70歳を過ぎてドライバーが飛ばなくなってからですよ。50代、60代の頃は飛んでいたし、飛ばしで負けるのも嫌いだったから、一生懸命振り回して痛い思いをしたこともしょっちゅうでした(笑)」(矢嶋さん)

 そんな矢嶋さんは、いったいどんな日常生活を送っているのか、次回はそれを紹介しよう。

*)次回(12月18日公開)は『ゴルフは私にとって“病院”みたいなもの』をお届けします。ぜひご覧ください。

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