日経グッデイ

現役エージシューターの「山あり、谷あり、ゴルフあり!」

「人間ドック異常値なし」86歳エージシューターの食と趣味

第3回…小唄に端唄、太鼓、舞踊演出、うどん1杯を食べに高速を飛ばす【和田孝弌さん】 

 高橋健二=ノンフィクションライター

ゴルフを嗜む者であれば、生涯に一度は経験したいことが3つあるとされる。「ホールインワン」「アルバトロス」、そして「エージシュート」だ。偶然などによってもたらされることが多いホールインワンなどとは違い、自分の年齢よりも少ない数字のスコアで回るエージシュートは、真の腕前だとされる勲章の1つ。そして何より、70代、80代、90代…でゴルフができる「元気の証」でもある。ゴルフを始めた経緯も、その人生も様々。現役エージシューターから学ぶ「体のこと」「ゴルフの極意」をお届けする。

夕食の白米抜きを7~8年続けている

 これまで34回のエージシュートを記録している和田孝弌(86歳)さんの1日は、毎朝5時前後、布団の中での運動からスタートする。

 「起きる前に布団の中で片足ずつ真っすぐ垂直に立て、左右に倒す運動を30回繰り返します。腰が張って重いときも、このストレッチをやると軽くなってすうっと起きられます。布団から出たらコップ1杯の水を飲みます。

 その後、テレビをつけてニュースなどを見ながら、血圧測定器で血圧を測る。特に健康に注意しているわけではないけれども、だいたい下が90前後、上が140で、それ以上にいっていないか安心材料として測定する習慣にしています」(和田さん)

 こうして朝の“ルーティン”を終えると、7時前後に食事をとる。

 「朝食は、昨夜の残り物などを少しずつ食べる程度です。特にご飯、パンのこだわりはありません。ただし、牛乳はしっかり飲む。朝はコップ2杯くらい。昼も夜も水代わりに飲みます。私1人で紙パック2本を3日で空けるほどです」(和田さん)

ティーショットのアドレスに入る和田さん。背すじがピッと伸びていて、とても 86歳には見えない。プレイファーストをモットーしする和田さんは、アドレスに入ったかと 思うと、次の瞬間には打ち終わっている。
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 一方、夕食は白米を食べずにおかずだけで済ませる。昨今でいう、「糖質制限ダイエット」の先駆けのような方法をかれこれ7~8年続けている。

 「ちょっとお腹が出ているので、これを凹ませようとして、白米を控えているのです。日本舞踊の藤間流の名取(名取名・藤間勢波)である家内も、ご飯を食べないときの方が踊るときの身のこなしが軽いといって食べないものだから、2人で控えていたら食べなくなりました。友人たちと外食をするときも、料理は半分ぐらい残すようにしています。戦中派としては、食べ物を残すのはもったいないと思うけれども、今は食べすぎが原因で病気になるケースが多いといわれています。だから、残すことが医療費の削減につながると言い聞かせて残しているんですよ(笑)。炭水化物は減らしていますが、たんぱく質の肉はよく食べます。週に2回は豚肉、あと1回が牛肉で、大根おろしたっぷりのタレでしゃぶしゃぶを食べるといった具合に、消化のことも考えて食べるようにしています」(和田さん)

 こうして食事には気を配りながら、毎晩23時以降に就寝する。ちなみに、酒はまったく飲まないそうだ。

 「早い時間に就寝すると、目覚めが朝方3、4時と中途半端に早い時間になってしまうんです。だから、趣味である小唄や端唄のお稽古をしてから23時以降に寝るようにしています。明日がゴルフというときに興奮して眠れないようなら、睡眠導入剤を飲んで早く寝るようにしています」(和田さん)

86歳で人間ドックの結果は36項目すべて基準値内!

 後ほど触れるが、和田さんはゴルフ以外にも多彩な趣味を持つ。そうした人はグルメであることが少なくないが、和田さんもその例に漏れない。自宅での食事こそ、体を気遣った実に質素なものだが、いざ外食をするとなると、旨い物には目がなくなる。昼食は妻と一緒に贔屓にしている料理屋に行くのをはじめ、「食べ歩き」を楽しんでいるという。人から旨い店があると聞くと、クルマを飛ばして出かけて行く。

取材当日、和田さんに連れられて行ったのは、地元の軽井沢で贔屓にしている手打ち蕎麦屋 「しなの屋吉べえ」。「牛すじの煮込みも旨いんです」(和田さん)
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 「自分で味を確かめないと気が済まない性分なのです。軽井沢や佐久など、地元で気に入った料理屋が7軒あって、順繰りに家内と回っています。先日、熱が37度も出て、食欲がなかったときのことです。病院で2時間点滴を打ってもらって元気になったら、夜、急にお腹が空いてきた。すると、以前立ち寄った、高速道のサービスエリアで味わった白エビと玉ねぎのうどんを無性に食べたくなりましてね。クルマを飛ばして行ってきましたよ。うどん1杯が630円なのに、往復の高速代が7000円(笑)。食べ物は、どこだろうが『あれが食べたい』と思ったら、即行ってしまうのです」(和田さん)

 グルメに話題が及ぶと、途端に和田さんの滑舌がよくなり始める。日常の自宅での食事には気を配るものの、いざ美食となると細かいことは気にかけない。こうしたメリハリのある食生活を送りながら、人間ドックでの検診36項目すべてが基準値内だというから驚きだ。

「退屈」という言葉を私は知りません

 ところで、和田さんはことあるごとに、 「人間は色気がなくなったらおしまいです」と話す。その考え方の原点は、ゴルフ以外の趣味の世界、「和ごと」の嗜みに窺える。

 まず小唄、端唄。和田さんは蓼派(たでは)の名取で、蓼競之介(たできょうのすけ)という名取名を持つ。

 「お師匠さんは、NHKの番組にも出ていた蓼鼓競さんという方です」(和田さん)

 次に、太鼓。諏訪太鼓の流れを汲む田楽太鼓を継承し、「信濃でいらんぼう音舞の会」を作った。地元の野沢南高校の高校生らを率いて長野県代表として、全国高等学校総合文化祭に4回の出場を果たしている。

長野県内の企業人で邦楽を趣味とする同好者が集り開催される「長野邦楽名韻会」に出演する和田さん。
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 さらに妻、禎子さん(73歳)の活動が、和田さんの趣味の世界をいっそう広げてくれている。日本舞踊の藤間流の名取(名取名・藤間勢波)でもある妻も、和田さんと同様、野沢南高校に働きかけて舞踊クラブを創部し、指導に駆け付けるほど。東京で舞踊教室を運営し、3年に一度のペースで「踊りの会」を主宰する。そのプロデュースを和田さんが一手に引き受けているという。

 「妻の『踊りの会』の開催日程が決まると、その1年前からプロデュースしていくのです。だから忙しいなんてものじゃない。『退屈』という言葉を私は知りません(笑)」(和田さん)

 かつてトヨタ自動車の大番頭で、ときの政府の要請を受けて国鉄再建の任を担って総裁になった故・石田退三は「元気な老後を送るためにはインドアとアウトドアの2つの趣味を持て」と言ったそうだが、和田さんはゴルフを含めて、3つ以上の趣味を持っている。加えて、本業である“社長業”はまだ現役バリバリだ。

 「インドアとアウトドアの2つの趣味を…というのはその通りだと思いますが、インドアの趣味が麻雀のような遊びではダメ。芸術的な趣味でないと“色気”はやはり出ないと思っています。芸術的、文化的な趣味を持つことは、世代を超えた話題にもなる。若い人たちとの交流も容易になると思っているのです」(和田さん)

芸術的なものに触れることが精神面の成長を促す

 和田さん自身、もともとスポーツは観戦することも、実践することも大好きだというが、それ以上に文化的な活動は大事にしているそうだ。美食への和田さんなりのこだわりも、その一環といえる。

 「精神の成長は、文化的なもの、芸術的なものに触れて初めて促されると思っているのです。体は年齢とともに衰える。しかし、文化的、芸術的なことに触れて精神面を磨き続ければ、肉体的な衰えを補えるのではないかと考えているのです」(和田さん)

 日本人のプロゴルファーが世界の舞台で今ひとつ活躍できないのは、若い頃に技術の習得に走るあまり、精神的な広さ・奥深さを育てるための機会が足りず、精神力が劣ることも一因ではないかと和田さんは考えている。

 「例えば、メジャーで9勝を挙げたグランドスラマーのゲーリー・プレーヤーを見ると、哲学者みたいな雰囲気を漂わせています。偉大なゴルファーたちは肉体と精神のコントロールに長けている。そういうものは宗教も含めて、幼い頃から文化や芸術に親しむところから育まれるように思うんですね」(和田さん)

 ゴルフを極めんとするならば、最後の最後に求められるのは「精神力」だといわれるが、和田さんのそれを支えているのは、ゴルフ以外の趣味に拠るところが大きいのではないだろうか。

 ゴルフはもちろん、和ごとの嗜みや、グルメ、ファッションといった趣味も、86歳にして「今が青春真っ盛り!」と言わんばかりの毎日を謳歌している和田さん。次回は、現在のゴルフライフをより詳しく紹介しよう。


*)次回(10月22日公開)は、『銀行の融資を引き出す86歳社長のエージシュート』をお届けします。ぜひ、ご覧ください。

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