菅さんのスイングを見ると、コンパクトなトップから真っすぐなボールが飛び出す。ドライバーの飛距離はかつてパーシモン(*1)で280~290ヤード出ていたというが、77歳になった今も220~230ヤードは確実に飛んでいる。高校球児だった頃に野球で培った球を飛ばす技術を備えていたとはいえ、遠藤プロのスイング理論が菅さんに合っていたことは間違いない。
特製「傾斜台」を使って4方向の傾斜ショットを練習
遠藤プロによる独自の指導法は、ほかにもあった。
2m四方の厚板に人工マットを敷き、高さが20㎝ほどになる下駄を厚板の一辺の下に取り付けた傾斜台を作り、その上からボールを打つ練習を繰り返した。下駄がついた一遍を体の正面側に置けば「つま先上がり」、背面側ならば「つま先下がり」のライから打てるというもの。さらに体の左側に置けば「左足上がり」、右側ならば「左足上がり」になる。練習場で4方向の斜面ショットの練習ができるようにしたのだった。
「この板の上から練習していたお陰で、アップダウンのあるコースに行っても戸惑わずに対応できました」(菅さん)
上達する人は、やると決めたら即、実行に移す
練習は集中してやるほうが上達は速い。たしかにその通りではあろうが、現役のサラリーマンではなかなか実践しづらいもの。平日夜7時に決まって練習場に行くこと自体、おいそれとはできそうにない。1年続ければ確実にシングルになれるとしても、それを「やる」「やらない」は、ゴルフに対する考え方や価値観を含めて人それぞれであろう。
一方、すでにリタイアして「毎日が日曜日」になっているシニア世代ならば、集中して練習することは不可能ではない。実際、この連載で登場した3人のエージシューターたちは、現役時代は火を噴くような激務に追われて、ゴルフをしたくても思うように時間がとれず、定年後に本格的に始めた人ばかりだった。
要はやるか、やらないか。
上達しない人は上達できない言い訳ばかりを考えているというのは、あながちウソではない。練習する時間がない。お金がない。コースに出る暇がない…。一方、上達する人は、やると決めたら即、実行に移す。言い訳を考えるあいだに実践している。
競技ゴルフの参加がさらに上達の手助けに
もう1つ、上達するための足掛かりになるのが「競技ゴルフ」であることも、シングルプレーヤーやエージシューターたちに共通していることだ。
仲間だけと回る“レジャーゴルフ”は気楽に楽しめる半面、どうしても甘えやわがままが出る。「6インチリプレース」や「1グリップOK」のゴルフを続けていると、本当の技術が身に付きにくく、ゴルフが持つ真の面白さを得にくいともいえる。なぜならゴルフは運不運が交互に訪れるゲームでもあり、特に不運を克服して前に進む技術と精神の力を身に付けていくことが、ゴルフの神髄に触れられる条件でもあるからだ。
レジャーゴルフをしている人は、周りの仲間の体力が衰えて1人ずつ減ってくると、やがて自らもゴルフからリタイアする…というのがお決まりのパターンである。70代、80代でも元気に動き周り、さらにエージシュートを目指そうと挑戦するならば、何はともあれ基礎練習を続け、競技ゴルフの世界にも挑戦することをお薦めしたい。
実際にやると決めて実行に移した菅さんは、1日も欠かさない練習と創意工夫のお陰で、ハンデキャップ4になり、その後、入会した栃木県のイーストウッドCCでは最高2にまでなっている。同クラブでは1995年、97年、2000年、01年と計4回、シニアチャンピオンに輝き、もう1つのホームコースである茨城ゼネラルCCでも2004年と05年の2度、シニアチャンピオンになった。これまでにエージシュートも2回達成している。
だが、こうした輝かしいキャリアを誇るトップアマたちにも、その先に待ち受けるエージシュート達成への困苦が待ち受けている。次回は、菅さんのエピソードを交えながら、その「困苦」について、ご紹介しよう
*)次回(9月16日公開)は、『シングルプレーヤーたちがたどる「老い」の苦労』をお届けします。ぜひ、ご覧ください。