筋トレをする代わりに、ラウンド前などに植杉さんがよくやるのがストレッチだ。大相撲の力士が四股を踏むような動き。両足を大きく開いて両手を膝に当て、そのまま腰を落としてから左右の肩を交互に内側にねじるストレッチだ。メジャーリーガーのイチロー選手が打席に入る前に行うルーティンといえば想像していただけるだろうか。
さらに歩くときの姿勢にも気を遣う。植杉さんは大正生まれにしては大柄で、身長が165㎝もある。ちょっと気を抜くと猫背気味に歩いてしまうことが多い。そこを千枝子さんが厳しく指摘するのだ。
「加齢は防げません。でも老化現象は防げる。首が前に出て、腰を曲げていると知らず知らずのうちに癖になるから、気をつけるようにというんですよ」(千枝子さん)
「年寄りを元気で長生きさせたければ、年寄り扱いしないこと」
植杉さんがこれまでに出場した大会の主な戦績は、ふくしま国体(1995年)シニアB組で銅メダル(3位)をはじめとして、全九州クラブチャンピオンズゴルフ大会(1987年)のシニア部、九州シニア・グランドチャンピオン大会(1997年)のグランドシニア部、九州スーパーグランドシニア選手権大会(2003、2008、2012年)など、いくつもの優勝を飾っている。また、2つのホームコースでのクラブチャンピオンも合計17回という実績もある。それらすべてが60歳以上になってからの「シニア」「グランドシニア」の大会だというのがいい。ゴルフは年齢に関係なく楽しめることから「生涯スポーツ」の代表と称されるが、それを植杉さんは身をもって示している。
果たして今後、植杉さんの記録を塗り替えるゴルファーが現れるかどうか。もし、植杉さんのように90歳を過ぎた人たちが、元気にゴルフを続けられることが当たり前になっていれば、日本は来る高齢化社会を憂うばかりではなく、スポーツを通じて健康長寿を謳歌できる真に豊かな健康大国、そして「ゴルフ大国」に変わっていけるような気がするのだが…。
次に綴る千枝子さんの言葉は、至極名言だろう。
「年寄りを元気で長生きさせたければ、年寄り扱いしないことです。危ないから運転はダメ、火を使う台所仕事はやめなさいといって仕事を取り上げると、年寄りはどんどん老け込んでいく。全部自分でさせて年寄り扱いしないことが、ゴルフも人生も、いつまでも元気に生き生きと楽しめるコツだと思っているんですよ」
植杉さんは91歳になった昨年、クルマを新車に買い替えた。愛車は必ず自分で運転し、九州各地で行われる大会には高速道路をふっ飛ばして行く。
<了>