日経グッデイ

もしかして五月病?と思ったら

「部下が五月病かも」と思ったとき…3つの対処法

第3回 求められる「適度な距離感」と「軽いアドバイス」

 柳本 操=フリーライター

職場の部下が最近、どうもやる気がなさそうだ。生あくびも多い。なのにあまり反省の色はなく、イライラしてこちらの指導を素直に聞かない。こんな「五月病の部下」に悩む人も多いだろう。部下の話をどう聞き、アドバイスすればいいのだろう。

「五月病の部下」に苦しむ上司も多い

五月病になった新入社員の対応に先輩社員はお手上げ?(©harunatsukobo-123rf)

 不動産販売会社で入社3年目を迎えたCさんの職場に、この春、新入社員のDがやってきた。有名大学を出ていてやる気も充分。周囲からも期待されていたが、最近、遅刻が増えてきた。

 客先であくびをしていたことを後で注意すると「あんな相手にぺこぺこするなんて、Cさんは平気なんですか?」と言い返してきた。怒鳴りたくなるのをぐっとこらえたが、部長に「しっかり教育しとけよ!」と自分が叱責される羽目に。Dは隣の席でため息をついたり、こちらが頼んだ仕事もミスが多くなってきた。いちから教えたり、直したりする負担が多く、残業時間が明らかに増えて、しんどい…。

 入社2~3年目でようやく仕事に充実感を覚えていた矢先に、問題のある新入社員の教育係になってしまい、ストレスを強める。こんな人も多いだろう。

 「新入社員よりも2~3歳先輩の社員が、指導・相談役を務める“メンター制度”を導入している企業が増えているが、新入社員が五月病になり、その対応に悩み、苦しんでいる人が多いのが実情です」と、東京大学環境安全本部教授で産業医の大久保靖司さんは話す。

 大久保さんによると、五月病の部下に悩まされる背景には、以下のような要因が考えられる。

  • 指導者側への教育が不十分であるために、部下との適切なコミュニケーションの取り方がわからない
  • メンタルヘルスの知識がないために、五月病になった部下への対応がわからず、戸惑ったり腹が立ったりして自らのストレスが高まる
  • 指導する側と指導される側の相性がミスマッチで、改善されない
  • 職場の人数が少ないため、メンター制度によって一部の人に過剰な負担がかかっている

 「メンター制度は仕事を早く覚えられるといったメリットがある一方、メンターとなる側の教育が不十分だったり、うまくいかなかった場合の対応策が整っていないと、制度はうまく回りません。また、メンター役の人が『後輩教育はできて当たり前。うまくできないと自分の評価が下がってしまう』と思っていると、自分だけで対処しようとして無理を重ね、その結果、部下との関係がこじれてしまったり、メンター役の人がうつ病になる恐れもあります」(大久保さん)

五月病の部下への接し方【1】相手の自尊心を損なう声かけや無理強いはNG

 部下が五月病かもしれない、というときには、

 「思ったより仕事できないね」
 「やる気あるの?」

 といった相手のプライドを傷つけるような声かけはNG。また、

 「ちょっとじっくり話そうか。今晩飲もうよ」

 と、飲みに誘うのもあまりお勧めできない。「近年は、気軽に飲みに誘ったり、プライベートのことを根掘り葉掘り聞こうとすることも“パワーハラスメント”と受け取られる可能性があります」(大久保さん)。

 では、いったい、どんなふうにコミュニケーションを取ればいいのか。大久保さんは、「腫れ物に触れるような特別扱いをすることはない。べったりするよりも、少し距離を置くのが現代のやり方です」と言う。具体的な部下への接し方を次から見ていこう。

五月病の部下への接し方【2】部下も苦しんでいることを理解しよう

部下もメンタル不調に悩んでいることを理解しよう。(©Helder Almeida-123rf)

 メンタルレスキュー・インストラクターの下園壮太さんは、「まずは、五月病の部下が陥っている3つの難しさについて理解をすることが大切」と言う。

 まず、1つ目が、「本人も、メンタル不調の悪循環に悩んでいる」ということ。

 たとえば、右脚をケガすると右脚をかばって歩く左脚まで次第に痛くなり、動けなくなって全身の活動レベルが低下する。これは、体がダメージを負ったときの悪循環だ。

 「心のダメージの場合には、こういったダメージの波及効果がさらに大きくなるのが特徴です。不安が強いとき、自信をなくしたとき、人は焦り、自分が周囲から攻撃を受けないように、無意識のうちにイライラすることによって人を遠ざけようとします。また、わっと相手を攻撃することで一瞬、気持ちがすかっとしたように感じると、どんどん人を攻撃するようになる。そうやって自ら周囲の援助の手をふりほどいていくためにストレスを増やしていき、疲れ果ててうつ状態になり、ある日会社に行きたくなくなってしまうのです」(下園さん)

 もう一つは、「“優等生”ならではの未熟さがある」ということ。成績優秀な人は、幼いころから「なにか自由に、やりたいようにやってみたい」という思いをつぶされ、「言われた通りにやる」ことこそ最良、と教えられて育っていることが多い。だから、「自分が失敗しないためには、誰かに教えてもらうのが一番正しい」と思っている。

 「こういった人は、人に負けてはならないとか、一回でできるようにならなくてはならない、という思い込みも強いので、あなたのやり方でやってみなさい、などといきなり自由作文を書かされるとパニックになってしまいます。新たな職場という環境になじむまでに、こちらが思うよりも長く時間がかかるということも理解してください」と下園さんは言う。

 最後の1つが、「コミュニケーション力が未熟である」ということ。近年若い世代に普及しているLINEなどのSNSでは、すぐに返事をすることが優先され、スタンプなどできるだけ短い会話のやりとりが多用される。そんな会話に慣れてきた新入社員は、相手と面と向かっての会話や間合いを読み取るトレーニングを受けていないので、相手との関係に不協和音が発生したときにスムーズに修復する技術も持ちあわせていない。「なんでもう一言がいえないんだ」「どうしてこの言葉の意味がわからないんだ」とイライラするかもしれないが、悪意があるのではなく、その技術がない場合も多いのだ。

五月病の部下への接し方【3】「効果的な助言」より、ちょっと離れて相づち

 古い昔から、「今時の若者は…」という言葉は変わらず存在するといわれる。現代の若者は、先で触れたような特徴を有するだけに、デリケートな扱いが求められる。対応も、より冷静に行っていく必要がありそうだ。

 五月病になった部下の話を聞くコツとして、下園さんは、「まずは最初から最後まで、相手の言い分をまず一通り聞いてみる。『そうかそうか、そう思っているんだ』と話を聞くだけでも、カウンセリングの90%の仕事はほぼ終了します。それほど、相手の言い分を聞くことの効果は高いのです」と話す。

 先輩の立場になると、「なにか効果的なアドバイスをしなくては」と気負ってしまいがちだが、実際には軽い助言のほうが良いという。

 具体的には、

 「オレも最初の3~4カ月はかなり悩んだけど、なんとかなったよ」

 と、「なんとかなった」という「結果」を言う。

 さらに、実務的な小さなアドバイスを2~3個伝えたら、最後は

 「あと2~3カ月がんばってみようよ」

 と、短い期間の提案をする。あと1年、などと長めの期間に設定しないことも、相手の負担を軽くするコツになる。

 「この人を絶対に救うぞ、などと気負うと、相手にプレッシャーをかけてしまいます。ちょっと離れて見守るぐらいのスタンスでいることが、自分も共倒れしないために大切なことです。企業社会なのですから、100%面倒をみる必要はないのです。どうしても環境が合わないのであれば、会社を移ったほうが本人のためになることもあるのですから」

 もし、医療機関に受診することになっても、「たまたま1回目でつまづいただけ。今のままでは走れないけれど、治療を受けて治ったら走れるよ」と、相手を責めずに状況を加味した声掛けをすると良いという。

 どんなに強い人でも、五月病になったりうつ病になることはある。調子を崩しても、また立て直していけばいい、という気持ちを職場内で共有していけるといい。

大久保靖司(おおくぼ やすし)さん
東京大学環境安全本部 安全衛生管理部長・産業医
大久保靖司(おおくぼ やすし)さん 産業医科大学医学部卒。産業医として企業の健康管理分野を担当。専門は、衛生学、公衆衛生学、健康科学。長時間勤務者の健康影響評価方法の開発などにも携わる。
下園壮太(しもぞの そうた)さん
メンタルレスキュー・インストラクター
下園壮太(しもぞの そうた)さん 防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。筑波大学で心理学を学ぶ。陸上自衛隊衛生学校メンタルヘルス教官として、衛生科隊員(医師・看護師など)にメンタルヘルス、自殺予防、カウンセリングなどを教育する。惨事ストレスに対応するMR(メンタル・レスキュー)インストラクター。