「部下が五月病かも」と思ったとき…3つの対処法
第3回 求められる「適度な距離感」と「軽いアドバイス」
柳本 操=フリーライター
職場の部下が最近、どうもやる気がなさそうだ。生あくびも多い。なのにあまり反省の色はなく、イライラしてこちらの指導を素直に聞かない。こんな「五月病の部下」に悩む人も多いだろう。部下の話をどう聞き、アドバイスすればいいのだろう。
「五月病の部下」に苦しむ上司も多い

不動産販売会社で入社3年目を迎えたCさんの職場に、この春、新入社員のDがやってきた。有名大学を出ていてやる気も充分。周囲からも期待されていたが、最近、遅刻が増えてきた。
客先であくびをしていたことを後で注意すると「あんな相手にぺこぺこするなんて、Cさんは平気なんですか?」と言い返してきた。怒鳴りたくなるのをぐっとこらえたが、部長に「しっかり教育しとけよ!」と自分が叱責される羽目に。Dは隣の席でため息をついたり、こちらが頼んだ仕事もミスが多くなってきた。いちから教えたり、直したりする負担が多く、残業時間が明らかに増えて、しんどい…。
入社2~3年目でようやく仕事に充実感を覚えていた矢先に、問題のある新入社員の教育係になってしまい、ストレスを強める。こんな人も多いだろう。
「新入社員よりも2~3歳先輩の社員が、指導・相談役を務める“メンター制度”を導入している企業が増えているが、新入社員が五月病になり、その対応に悩み、苦しんでいる人が多いのが実情です」と、東京大学環境安全本部教授で産業医の大久保靖司さんは話す。
大久保さんによると、五月病の部下に悩まされる背景には、以下のような要因が考えられる。
- 指導者側への教育が不十分であるために、部下との適切なコミュニケーションの取り方がわからない
- メンタルヘルスの知識がないために、五月病になった部下への対応がわからず、戸惑ったり腹が立ったりして自らのストレスが高まる
- 指導する側と指導される側の相性がミスマッチで、改善されない
- 職場の人数が少ないため、メンター制度によって一部の人に過剰な負担がかかっている
「メンター制度は仕事を早く覚えられるといったメリットがある一方、メンターとなる側の教育が不十分だったり、うまくいかなかった場合の対応策が整っていないと、制度はうまく回りません。また、メンター役の人が『後輩教育はできて当たり前。うまくできないと自分の評価が下がってしまう』と思っていると、自分だけで対処しようとして無理を重ね、その結果、部下との関係がこじれてしまったり、メンター役の人がうつ病になる恐れもあります」(大久保さん)
五月病の部下への接し方【1】相手の自尊心を損なう声かけや無理強いはNG
部下が五月病かもしれない、というときには、
「思ったより仕事できないね」
「やる気あるの?」
といった相手のプライドを傷つけるような声かけはNG。また、
「ちょっとじっくり話そうか。今晩飲もうよ」
と、飲みに誘うのもあまりお勧めできない。「近年は、気軽に飲みに誘ったり、プライベートのことを根掘り葉掘り聞こうとすることも“パワーハラスメント”と受け取られる可能性があります」(大久保さん)。
では、いったい、どんなふうにコミュニケーションを取ればいいのか。大久保さんは、「腫れ物に触れるような特別扱いをすることはない。べったりするよりも、少し距離を置くのが現代のやり方です」と言う。具体的な部下への接し方を次から見ていこう。
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