がん治療で悩んだとき、相談相手は医師以外でいい
チームで支えることによる患者さんへの3つのメリット
鳶巣賢一=都立駒込病院院長
がんの病状は個人差が大きく、治療法が複数あり、さらに患者一人ひとりの価値観も異なります。がんと診断された直後から、患者は自分の病気を理解し、さまざまな情報を取捨選択する人生が始まります。自身も肺がん患者である、日経BP社の山岡鉄也が、がんと向き合った人々に話を聞き、後悔しない人生を送るためのヒントを紹介していきます。
がんの治療などでは、医療者がチームを組んで患者さんや家族を支える「チーム医療」という取り組みが広がっています。その「チーム医療」では、いったいどんなケアをしてくれるのでしょうか。今回は、2002年に静岡がんセンター病院長就任以来、「チーム医療」に力を入れている、都立駒込病院院長の鳶巣賢一さんにお話を聞きました。鳶巣さんは患者にとってチーム医療がうまくいくかの鍵は「患者・家族、そして医療者間の上手なコミュニケーション」と話します。
多職種が連携して、患者の体と心、生活をサポートする
鳶巣先生は静岡がんセンター、聖路加国際病院、そして、いまの都立駒込病院でも、「チーム医療」にはとても力を入れておられます。チーム医療とは、どのようなことをするのですか。

鳶巣 チーム医療とは、1人の患者さんに対して、医師や看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士、作業療法士など、複数の職種が同じ目標を持ち、連携しながら治療や療養のサポートをしていくことです。
がんや糖尿病など、合併症の心配があったり、病巣が広がっていく可能性のある病気、あるいは脳卒中など病後に全身のケアが必要な病気では、いくつもの診療科や医師以外の多職種が協力し合わないといけません。それぞれの科の専門の医師や看護師などが意見を出し合いながら、治療を進めていくことが大切です。
例えば、乳がんの場合、乳腺外科医が主治医となり手術をしますが、術後の放射線治療は放射線科医、抗がん剤治療・ホルモン療法は腫瘍内科医が担当します。万が一、がんが脳に転移しているのが分かれば、脳外科医も加わってきます。さらに、痛みや不快な症状のコントロールが必要であれば、緩和ケア医が担当します。
それぞれが独自の方針で治療を進めるのではなく、担当する医療スタッフ同士が、患者さんの情報を共有し、ベストな形で治療ができるよう模索していきます。
なるほど。患者自身は、治療中は医師や看護師と顔を合わせることが多いのですが、そのほかの職種の方はどのように関わってくるのですか。
鳶巣 乳がんの例で続けると、抗がん剤治療中や手術後、ベッドで寝ている期間が長くなると、運動器(*)の機能が低下して歩きにくくなったり、手術の影響で腕を上げにくくなったりするため、患者さんの状態を見ながら理学療法士や作業療法士がリハビリテーションを行います。
医師が処方した薬の説明や副作用のチェックは薬剤師が担当します。病院食が食べられない場合は、どんなメニューなら食べられそうかなどについて管理栄養士が相談にのります。
気持ちが落ち込んでしまい、食欲がなくなったときは、臨床心理士がベッドサイドで話をお聞きします。
病院の入院費の支払いや退院後の療養場所、仕事などに関する不安や悩みについては医療ソーシャルワーカーが相談を受けます。
そうなんですね。チームのメンバーはどうやって情報共有しているのですか。
鳶巣 これは、患者さんにはわかりづらいかもしれませんね。患者さんの治療に携わっている担当者は定期的なカンファレンスで情報共有しています。また、治療開始時や治療に行き詰まったときには「キャンサーボード」と呼ばれる会議で、それぞれの専門的な視点から得た情報を共有し、患者さんの希望に合わせた治療や療養の方針を決めているんですよ。
この会議には患者さんは出席しませんが、専門家が客観的に情報を整理し、共有し、それぞれの知識を使って最善の医療を提供すべく計画を立てます。そこで話し合われた内容は診察時や回診のときに患者さんにフィードバックされているはずです。
*運動器とは、筋肉・骨・関節・軟骨・椎間板など身体の運動機能に関わる組織の総称。人間の器官にはこのほか、呼吸器、消化器などがある。