押川勝太郎「治療のつらさは遠慮せずに伝えてほしい」
医師と患者の関係を深める患者勉強会とは?
押川勝太郎=宮崎善仁会病院 消化器内科・腫瘍内科医師
医師には、患者のつらさはなかなか伝わらないものなのでしょうか。

押川 実は、医療者は「問題があれば、患者さんは言ってくれるはず」と思い込んでいます。一方、患者さんは「医療者は患者の痛みも苦しみもわかってくれているはず」という幻想を抱いています。お互いの状況が想像しきれていないんですよね。
そのせいで、医師の気付かないうちに病状が悪化してしまうことがあります。例えば、これは共同勉強会で受けた相談事例なのですが、大腸がんでイリノテカンという抗がん剤治療を受けていた他院の患者さんがいました。この治療では、腹痛を伴うひどい下痢が起こりやすく、患者さんも悩まされていましたが、2週に1度の外来でそのことを言わなかったため、医師は薬の処方量を減らさずに治療を続行しました。その結果、患者さんはついに我慢できなくなり、緊急入院になってしまいました。
医師の立場から言えば、外来だけで患者さんの状態を知ることには限界があります。血液検査や画像検査よりも患者さん自身の自覚症状の変化の方が有用であることが少なくありません。治療中の副作用や要望、悩みは我慢せず、医師や看護師などに相談しないと、治療に大きな影響がおよび、ときには治療が中止になってしまうことを知っておく必要があります。
「がん治療においては、我慢は美徳ではない」
それでは、医師も患者も不幸になりますね。

押川 例えば、抗がん剤の中には、ひどい悪心や嘔吐が現れるものがあります。1度その吐き気を経験すると、再び同じ治療が始まる前から嘔吐の記憶がよみがえり、恐れから吐き気が抑えられなくなってしまうことがあります。これは医学用語で「予測性嘔吐」と呼ばれていて、目の前に梅干しがないのに、思い出しただけでつばが出てしまう条件反射と同じです。
今では、吐き気が現れる前に薬を使ってそれを抑えるといった治療法も広まってきています。つらさを伝えてくれていれば、そうした対応もできるのです。特にがん治療においては、我慢すること、つらい気持ちを抑えてしまうことは美徳ではありません。
普段から、あれこれ言って来られる患者さんのほうがかえって早く軌道修正できるため、こちらも助かります。そういった意味でも、診察室では聞けない患者さんの“本音”が聞ける共同勉強会は、医師にとっても非常に有用な場所なのです。
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