田部井淳子「山での遭難に比べたら、がんの治療の方が恵まれている」
登山で培った、困難を受け止める力
田部井淳子=登山家
「今日も生きていられる。そのことに感謝」
私も同じです。がんになってから、生きることに前向きになりました。毎朝、すべてのものに感謝するように心掛けています。田部井さんは、学生のころから前向きな性格なんですか?
田部井 いえいえ、大学生のころは福島の田舎から出てきて言葉がなまっているから、人と話すことが好きではありませんでした。テレビもない時代だったので、東京の人の言葉が高貴に思えて…。結構、いつも落ち込んでいる、暗いタイプでしたよ。
その後、山に登るようになってから、性格が変わりました。初めての登山は奥多摩へ行ったとき。臼を引いているおばちゃん、鎌や鍬を持ったおじちゃんがいて。「なんだ、東京も自分が生まれた(福島県)三春町と変わらないじゃないか」と、ふと心が軽くなったんです。
おばちゃんに道を聞いたら、「帰りに寄ってがんしょー」と声をかけられて。「自分の言葉が通じている!」とうれしかった。
それから本を買って、毎週「次はどこに登ろうか」とあれこれ考えるようになって。東京の日常生活では無口ですが、山に行ったらしゃべれる。そのうちに、みなさんと話せるようになりました。次の計画を立てるのは本当に楽しい。これこそ、生きがいと感じました。
私にとって、山の力は、昔もがんになったときも、とても大きいものでした。
(写真:清水真帆呂)
田部井さんはがんになって、今を大切にする、周りに感謝するという気持ちが強くなったばかりでなく、自分自身の体の声に耳を傾け、自分を大切にするようになったといいます。次回(「病気になっても、病人にはなりたくない」)は、がんを経験して生活がどう変わったかについてインタビューします。
登山家

2012年から、毎年夏休みに、「東北の高校生の富士登山~登ろう日本一の富士山へ~」プロジェクトを開催。日本一の山から、次なる東北を支える「勇気」と「元気」をもらおうと願いを込める。昨年も86人の東北の高校生が登頂した。1人でも多くの東北の高校生を招待できるよう、ホームページでは寄付の協力を募っている。(主催:株式会社山と渓谷社、日本山岳遺産基金/田部井淳子)http://sangakuisan.yamakei.co.jp/tohoku_fujisan/
日経BP 広告局プロデューサー
医療ジャーナリスト