「ニオイがしない」と感じたら
思わぬ病気が原因かも
日本経済新聞電子版
過信は禁物
嗅覚障害は命に直接関わらないため医療の対象として考えられにくかった。「今は知識も普及し、積極治療をする医師も増えてきた」(杉尾部長)。ただ、問題は自分の症状に気づきにくいということだ。杉尾部長は「嗅覚は時間とともに感覚が鈍る性質があり、どれぐらい強く感じているか分かりにくい」と話す。帰宅直後に気になった部屋のニオイもすぐ分からなくなるのと同じだ。
嗅覚障害外来では「基準嗅力検査」というニオイの強さが段階的に異なる試薬を嗅いで嗅覚の強さを判定する。「自分は大丈夫」と思っている人でも、かなり嗅覚が衰えていることがある。
古田講師は「副鼻腔炎でも、一般の検査では気づかれにくいこともある」という。「ニオイが分かりにくい」と訴える患者に「コンピューター断層撮影装置(CT)などで検査してはじめて明らかになることもある」と話す。嗅覚の不安は、早めに耳鼻咽喉科で相談することが大切だ。
また、鼻づまりを放置して嗅覚細胞を使わないままでいると、嗅覚そのものが衰えてしまうという。香り豊かな生活を楽しむには、日ごろから嗅覚を大切にすることが大切だ。まずは禁煙し、花の香りをかぐなどで鍛えよう。花粉症やハウスダストによるアレルギー性鼻炎についても適切なケアと治療を心がける。
食事は、偏食せずにカキや豚レバーなど嗅細胞の新陳代謝に必要な亜鉛を豊富に含んだ食品や、イワシやシジミなど末梢神経の維持に必要なビタミンB12を多く含む食品を積極的に取り入れるようにしたい。
忘れてならないのは、適切な体重管理や定期的な運動習慣で、メタボリックシンドロームを予防すること。古田講師は「血糖値が高い状態が長く続くと、末梢神経のしびれなどまひ症状が起こる。嗅細胞も影響を受ける組織の一つだ」と話す。
繊細な嗅覚。ニオイが無いと生活の味わいが薄れるだけでなく、万が一のガス漏れや腐った食べ物に気づくのにも支障が出る。嗅覚異常は副鼻腔炎など、病気のサインでもある。普段から「香りを楽しむ」生活を心がけることが、嗅覚障害の予防と病気の早期発見につながるかもしれない。
薬やサプリで治療可能に
嗅覚障害と診断されたとき、原因が副鼻腔炎にある場合は、マクロライドと呼ばれる抗生物質を投与するとともに、ステロイド鼻噴霧点鼻薬で鼻粘膜の炎症を抑える治療が中心となる。症状によっては手術治療で嗅覚を回復する場合も多いという。またアレルギー性鼻炎の場合も、抗ヒスタミン剤やステロイド鼻噴霧薬が用いられる。
風邪のウイルスなどによる嗅細胞の障害の場合は「ビタミンB12、漢方薬などを内服してもらいながら、じっくりと細胞が再生されるのを待つ」(古田講師)という。血液中の亜鉛濃度が低い場合には、亜鉛を含む医薬品やサプリメントを内服する場合もある。
(ライター 荒川直樹)
[日経プラスワン2015年12月5日付]