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インフル治療、1回飲むだけ 新薬「ゾフルーザ」登場

 日本経済新聞電子版

インフルエンザが流行する季節に近づいてきた。昨季は記録的な患者数となるなど猛威を振るい、今年も感染のリスクを心配する人は多いはずだ。そんな中、3月に発売された錠剤型の治療薬「ゾフルーザ」は、1度飲むだけでウイルスが増えるのを抑えられるという手軽さがウリ。飲み忘れなどを防げるため、新しい治療の選択肢としてこれから広がる可能性がある。

塩野義製薬が3月に発売したゾフルーザ錠

 東京都内に住む6歳の女児は春ごろ、せきや高熱が続いたため、母親と大川こども&内科クリニック(東京・大田)を受診した。検査の結果、A型インフルエンザの感染が分かった。

 嘔吐(おうと)の症状はなく水分はとれていたため、母親の希望で治療薬のゾフルーザが処方された。帰宅後に女児が1錠飲むと、翌日には熱が下がり、順調に回復した。診察にあたったクリニックの大川洋二理事長は「1回の服薬で効果が出るので患者の負担が大きく減った」と話す。

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 従来のインフルエンザ薬には「タミフル」のような口から飲む錠剤のほか、「イナビル」「リレンザ」といった粉状の薬を吸入するタイプがある。患者の多くは病院でこれらのタイプを処方されてきた。タミフルは1日に2錠、5日間飲み続ける必要がある。

 イナビルも1回だけで効果が出るタイプだ。ただし吸入容器を使い薬を吸入するため少しコツがいる。子供やぜんそくなどの呼吸器に病気を抱える患者らは、吸入が難しい場合もある。

早期の抑制効果

 これに対しゾフルーザは錠剤を1回飲むだけでウイルスの増殖を抑える。塩野義製薬が3月に発売した。

 インフルエンザウイルスは細胞の中で増え、細胞膜を破って外に広がる。従来の治療薬はウイルスが細胞の中から出てくるのを抑えるが、ゾフルーザはウイルスが細胞の中で増殖できないようにして感染を防ぐ

 塩野義は患者の鼻水から感染性のあるウイルスの数を調べた。ゾフルーザを飲むと、翌日には鼻水の中に含まれる感染性のウイルスが10万分の1に減っており、従来の治療薬よりも早く抑えることができた。

 ゾフルーザの薬価は、10ミリグラム錠が約1500円、20ミリグラム錠が約2400円。新薬のため既存薬に比べて少し割高だ。ただ、自治体によって異なるものの、実際の自己負担額は従来の薬とほとんど変わらない。大人なら20ミリグラム錠を1回2錠、子供は10ミリグラム錠を1錠飲むのが大体の目安となる。処方については受診時に医師に相談してみよう。

 大川理事長はゾフルーザを患者に処方するとき、ほかの治療薬を含めて飲み方や効果などを説明する。納得の上で選んでもらう。錠剤のため、幼い子供や吐くような症状のある患者には、ゾフルーザを薦めない場合もある。新薬であることに不安を感じ、従来の薬を選ぶ人もいるという。

 ただ、ゾフルーザを選ぶ患者は同クリニックでは半数ほどにのぼるという。大川理事長は「予想していたよりもとても多い。1回ですむ気軽さが大きいのではないか」と話す。

予防薬に活用も

 きちんと薬を飲めるか不安な子供などには処方後に戻ってきてもらい、医師の目の前で飲んでもらうような工夫もするという。塩野義は飲みやすい粉薬の発売も目指している。まず体重が20キログラム以上の患者向けを計画する。

 予防薬としての販売も見込む。効果が出る血中濃度が服用後10日ほど維持できるため「ウイルスが体の中で増殖しないようにして発症を抑えられる」と同社は期待する。こちらは臨床試験を経て、2019年秋の承認申請を目指す。

 一方、新薬なので思いもよらない副作用や薬剤耐性ウイルスが出る可能性もまだある。同社によると今のところ大きな問題は起きていないが、日本感染症学会はゾフルーザへの耐性ウイルスについて「臨床効果への影響、周囲への感染性について今後の検討が必要」との提言を出している。

 早くウイルスが抑えられるからといって、感染力のあるウイルスが全てなくなるわけではない。そのため従来の薬と同じように、解熱後2~3日は外出を控えよう。普段から規則正しい生活を心がけ、予防接種を受けることでインフルエンザにかからない生活を送る大切さは変わらない。

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今年も既に流行の兆し 昨季は患者数が最多に

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 インフルエンザは世界的に流行する「パンデミック」が過去に何度か発生し、1918年から広がったスペイン風邪では世界で数千万人の死者が出た。ワクチンが開発されて感染や重症化を抑えられるようになったが、近年になっても新型ウイルスが生まれている。

 現在広く使用されているタミフルやリレンザは日本では2000年代に入り登場。A型やB型にかかわらずインフルエンザウイルスの増殖を抑えて重症化を防ぐ薬だが、タミフルに耐性を持つウイルスも発生している。

 今年も既に流行の兆しがあり、東京都や大阪府などの大都市で休校や学級閉鎖が出た。インフルエンザは例年、11月下旬頃から大きく増加し、2月頃にピークとなる。昨季は推計患者数が2230万人を超え、99年の統計開始以来最多となった。

 予防接種だけではインフルエンザ感染を防げない。外出後の手洗いなどを忘れないように気をつけ、屋外ではできるだけ人混みを避ける方がよい。

(福井健人)

[日本経済新聞朝刊2018年10月29日付]

この記事は、日本経済新聞電子版「病気・医療」からの転載です。