秋の山、安全に楽しむには
水分不足・低体温症に注意
日本経済新聞電子版
紅葉が美しい季節。近年の登山ブームもあり、山へ足を運ぶ人も多いだろう。だが、気象や体力を見誤ると、重大なトラブルを招きかねない。特に最近は、中高年の登山者による遭難事故が増えている。多くのトラブルは疲労からきているという。疲労を避け、ケガをしないためのポイントを知っておこう。
昨年の山岳遭難事故は全国で2293件と、1961年以降で最多となった。中でも目立つのが、40歳以上の、いわゆる中高年登山者による事故で、全体の8割近くを占める。
日本山岳ガイド協会の磯野剛太代表理事は「事故が増える背景には登山のレジャー化がある」という。その典型が、ツアー登山。パック旅行のように旅行会社に申し込み、ガイドの付き添いで登る。「参加者には『ガイドが連れていってくれるだろう』という甘えがある」と磯野氏。結果、体力に見合わないコースへの参加者が増える。
それでもガイドがいれば体力に合わせたルートへの変更なども可能。実際に事故が多いのはガイド無しで体力を超えた登山をした場合だ。体力は維持に努めないと、加齢とともに確実に衰える。
見合った山を
山の事故の内訳は道迷いが最多。滑落、転倒と続く。磯野氏は「ほとんどのトラブルに疲労が絡んでいる」と話す。疲れから、判断力や足腰のバランスが低下するのだ。
ガイドブックなどにはよく「山頂まで4時間」などと書いてあるが、歩く速さは体力によって違う。天候が崩れてペースが落ちることもある。「そういう山の常識が、レジャー化した登山では抜け落ちやすい。自分の体力を棚に上げ、『4時間歩いたのにまだ着かないのはおかしい』などと不満を言う人が増えた」と磯野氏はいう。体力に見合った山を選ぶのが、事故を防ぐ基本だ。
呼気で水分蒸発
医学的には、どんな注意が必要だろう。心臓血管センター北海道大野病院の医師で、国際山岳医の資格を持つ大城和恵氏は「まず注意すべきは脱水」と話す。「登山は汗をよくかき、大きく息を吐くので、汗と息の両方から水分が失われる」(大城氏)。脱水すると、疲労感が強まり、高山病や心筋梗塞のリスクが高まる。「山で心臓発作を起こしたら、救命率は極めて低い」(大城氏)
「朝、最低500ミリリットルは水を飲む。朝の最初の尿は夜にたまった分。2回目が出れば体が潤ったサイン。それから動き出すこと」と大城氏。経口補水液なら塩分も取れ、体内に水分を保ちやすい。登山中も30分ごとを目安に200ミリリットルずつ補給。喉が渇く前に飲むのが大事で、併せて炭水化物を取ると疲れにくい。
- 次ページ
- もう一つ、警戒すべきなのが「低体温症」