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トピックス from 日経電子版

2300万人が悩む「慢性の痛み」 改善のポイントは運動

 日本経済新聞電子版

ケガが治っても、あるいはケガがなくても痛みが続く慢性疼痛(とうつう)に悩まされる人が多い。薬では痛みが引かない患者向けに、運動を取り入れたり、痛みの心理的な捉え方を変えたりする治療法が広がりを見せている。痛みへの恐れを解消して自信をつけ、痛みがあっても活発に過ごす生活を後押しする。参加者の多くが復職するなど効果も表れている。

19年に愛知医科大学の「ペインキャンプ」に参加した水野さん(右)は、現在もプログラムに関わる医療スタッフの指導を受けながら運動を続けている

 「股関節の動きが上手になりました」。愛知医科大学病院(愛知県長久手市)の運動施設で、医療スタッフの軽快なアドバイスが響く。バーベルを持ち上げるのは、慢性の痛みを患っていた会社員の水野雄介さん(45)だ。

 水野さんは2017年に原因不明の腰痛に襲われた。一時はつえがないと歩けず、休日もほとんどベッドの上で過ごした。日常の生活を満足に過ごせず、人生に絶望したこともあったという。

 19年2月から1カ月、愛知医科大病院が実施する慢性疼痛の治療プログラム「ペインキャンプ」に参加した。筋力トレーニングや、痛みの心理的な捉え方を変える認知行動療法などをこなした。

 治療後、痛みへの恐怖が減った水野さんは「鎖でがんじがらめの状態から解き放たれた」と効果を実感している。痛みが出る日もあるが、うまく付き合えているという。

 多くの慢性疼痛は薬などで治療するが、改善しない場合も多い。治療に終わりが見えず不安が高まると痛みに過敏になる。動くのをためらって体が固くなり、さらに活動が減るなど、悪循環に陥りやすい。

 ペインキャンプはこの悪循環を防ぐのが狙いの一つだ。愛知医大准教授の井上真輔さんは「体を動かせると実感すると、自信がつき前向きになれる」と説明する。3年前から80人ほどが参加し、復職につながった例も多いという。

 重視するのは、患者が自分で動くことだ。参加者を2~3人と少人数にしてサポート体制を充実させ、過去の参加者の成功例を伝えるなどして不安を取り除く。キャンプ終了後も元参加者に施設の利用継続を勧めている。同じ境遇の仲間と共にやる気を高めやすいだけでなく、キャンプの新しい参加者にとっては身近な手本になるなど、好循環が生まれている。「参加者が安心して運動できる環境を作っている」(理学療法士の中楚友一朗さん)

[画像のクリックで拡大表示]

 運動と共に重視されているのが痛みの捉え方を改善する認知行動療法だ。国立精神・神経医療研究センターなど4機関は、認知行動療法による8週間ほどの治療プログラムを開発し、臨床研究を始めている。

 プログラムは週に1度程度で、1回30~40分。痛みに対する考え方や行動などを分析し、改善の方法を学ぶ。これまでに30人ほどが参加した。同センター・認知行動療法センター長の堀越勝さんは「痛みをコントロールすることを目指す」と強調する。

 プログラムでは痛みを完全に無くすことを目標にしない。痛みでできなくなったことを、再びできるようになったという実感を重視する。

 中には、痛みから抜け出せないと感じる気持ちを客観視する練習もある。例えば治療で「やっぱりダメだ」と感じたとき、架空の「やっぱり君」が心に現れたと意識して、一呼吸置く。続けた患者からは、「不安が生じてもまた『やっぱり君』が出てきたと思うと、とらわれずに生活できる」との声が届くという。

 現在、臨床研究は事務処理の関係で一時的に患者の募集を停止しているが、21年の早い時期に再開する予定だ。

 痛みの再発に備えることも大切だ。休憩をこまめにとるなどのコツをつかむほか、痛みが再発しても何とか対応できると自信を持てることが重要だという。痛みと付き合うすべを身につけることが重要のようだ。

◇     ◇     ◇

一般外来へ導入促す

 慢性疼痛に苦しむ人は全国で約2300万人と推計される。高齢で発症しやすい。ケガの痛みとは異なり、精神的な要因や、孤立など社会との関係性が影響する場合も多いという。

 海外では認知行動療法の治療効果が実証されている。日本でも関西大学を中心に4つの医療機関で2019年から臨床研究に取り組んでいる。科学的な効果を検証し、保険診療の対象になることを目指している。

 患者の不安を取り除くには信頼関係が重要だ。認知行動療法では関係づくりに時間をかけるため、薬を処方する短時間の診療に比べ導入されにくい面もある。10分間ほどの短縮プログラムが開発されるなど、一般の外来診療への導入を促す試みも進んでいる。

(尾崎達也)

[日本経済新聞夕刊2020年10月21日付]

この記事は、日本経済新聞電子版「病気・医療」からの転載です。
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